著者のコラム一覧
一雫ライオン作家

1973年、東京都出身。明治大学政治経済学部2部中退。俳優としての活動を経て、演劇ユニット「東京深夜舞台」を結成後、脚本家に。数多くの作品の脚本を担当後、2017年に「ダー・天使」で小説家デビュー。21年に刊行した「二人の嘘」が話題となりベストセラーに。著書に「スノーマン」「流氷の果て」などがある。

彼は神が間違いを犯さないかぎり物書きにはなれないだろう

公開日: 更新日:

「俳優になりたい」と始めたが、なんやかんやで15年が過ぎてしまった。気がつけば35歳。そのとき初めて「恥をかこう」と思った。映画ドラマも出れる場所がないのなら、自らで劇団をつくり思う存分演じ、見ていただき評価してもらおうと。そうしたら自分で書いた脚本であるのに自分がやれる役がない。恥をかく以前の問題になったが、「書く」ということに脳内からつうと涎が出た。いや、どぱーっと出たのだろう。

 猛烈に書きたいと細胞が暴れ、35歳からのスタートとはなったが、そこからの時間はまさに気が触れながら作品を書いてきた。そして気がつけば44歳のときに処女作「ダー・天使」を出版できたのだ。

 だから作家になりたいという青年に言いたいのは「恥をかく覚悟はあるのか」という問いだ。もし「落選するのが嫌」な理由がプライドだけの問題なら、生ゴミの収集日でなくとも即刻ビニール袋に入れて捨ててしまったほうがいい。

 野球狂であるので例えれば、誰だって最初は奇麗なヒットが打ちたい。だがまず試合に出るためには、どんくさいヒットでもいいわけだ。内野の隙間をころころとボールが転がっていくのもよし外野にポテンとボールが落ちるもよし、かつての広島達川選手、西武金森選手のように当たってもいないのに「うぎゃー」と叫び体をひねりデッドボールの判定をもらってもいい。まず塁に出ることだ。そうすれば神は時々間違いを犯すので、才に恵まれていない青年にも、手を差し伸ばしてくれるかもしれない。だが、その神は悪魔かもよ。だってね、書くって、楽じゃないの。

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