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山田勝仁演劇ジャーナリスト

3~8月は公演中止に…藤原章寛、シライケイタの活躍を紹介

公開日: 更新日:

 新型コロナウイルスの影響をもろに被ったのが演劇界だった。2月に発令された東京アラートが解除された直後の7月初旬に新宿の劇場で感染クラスターが発生したこともあって3~8月はほとんどの公演が中止になった。

 本来なら国が休演への赤字補填や補償をするべきだが、文化庁の「文化芸術活動の継続支援事業」は補償ではなく、新規事業への補助が基本。申請手続きも煩雑で、休業補償を渋る政府の姿勢を反映しているかのようだ。しかし、演劇界は独自の厳しい感染防止ガイドラインを作成することで公演に臨んだ。

 そんな演劇界で特筆すべき舞台を紹介したい。

■名優に伍して好演の藤原章寛

 まずは、文化座「炎の人」(作=三好十郎、演出=鵜山仁)。画家・ゴッホの生涯を描いた名作中の名作で過去に滝沢修、仲代達矢、市村正親らそうそうたる名優が主人公のゴッホを演じた。

 今回抜擢されたのは若手の藤原章寛。貧困と病、世間の冷遇、そして孤独と絶望の中で後世に残る傑作を描き続けた天才画家の精神の気高さをうたい上げた舞台は汚濁にまみれ、忖度(そんたく)だらけの日本への警鐘になっていた。

 青年劇場の「星をかすめる風」(原作=イ・ジョンミョン、脚本・演出=シライケイタ)は韓国の国民的詩人・尹東柱の福岡刑務所での最後の日々をモチーフに、看守殺しの謎を描いたミステリータッチの作品。戦争犯罪と真摯に向き合いながら、詩情豊かな舞台となった。

 東京裁判で死刑になった南京事件の司令官・松井石根を主人公に戦争責任を描いた劇団チョコレートケーキ「無畏」(作=古川健、演出=日澤雄介)、名取事務所2作連続「獣の時間」(作=キム・ミンジョン、演出=シライケイタ)は日帝時代に韓国の浮浪児保護施設で起きた悲劇を、「少年Bが住む家」(作=イ・ボラム、演出=眞鍋卓嗣)は14歳の時に殺人を犯した青年の内省を描いた。

 紙数がないのでタイトルだけ挙げれば、劇団民藝「ワーニャ、ソーニャ、マーシャ、と、スパイク」、JACROW「闇の将軍」3作連続上演、俳優座「火の殉難」、メメントC「太平洋食堂」、流山児★事務所「客たち」などが著しい舞台成果を上げた。

シライケイタは大車輪の活躍

 最後に、この人の名前を挙げたい。演出家のシライケイタ。

 彼の所属する劇団「温泉ドラゴン」新作公演は3月に中止になったが、劇作家、俳優としても活躍する彼に対するオファーは引きも切らず、シーエイティプロデュース「BIRTH」(作)、オールスタッフプロデュース「音楽劇 獅子吼」(脚本)、A4プロデュース「オーファンズ」(演出)、流山児★事務所「客たち」(演出)、「ジョルジュ」(出演)ほか多数の舞台でフル活動。自粛を余儀なくされた演劇人の中で大車輪の活躍をしたシライこそ「マン・オブ・ザ・イヤー」にふさわしい。

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