コント赤信号・小宮孝泰インタビュー「年老いたって夢を抱くのは自由」

公開日: 更新日:

 人間、何歳になっても夢を見ていたいが、年を取れば見たくない現実も見えてくる。「もし理想の女性を前にした時、自分の男性機能が失われていたら?」――そんな老境の赤裸々な葛藤をコミカルに描いた映画「桃源郷的娘」が1月21日より公開となる。

 主演はコント赤信号で俳優の小宮孝泰(65)。男性機能を失ってしまったために“眠れる美女”を前に葛藤する老境の主人公(江崎宗介)への思い、そして、自身の夢について聞いた。

  ◇  ◇  ◇

 ――太田慶監督の作品に出演されるのは2回目。処女作から2作連続の“皆勤賞”です。

 そうですね。日活社員である監督は総務人事部の所属で製作畑ではないけれど、とにかく映画が好きな人。そんな監督から「お金は自分で用意しました!」と事務所にオファーいただいたのが、そもそものきっかけです。前作は観念的な内容でコメディーを目指したものの、課題を残した。観客の反応もどんなもんかなあ……だったので、次回作はないんだろうなと思っていたら、「お金作ったので、またやりましょう!」と、ふたたびお声がかかったんです(笑い)。

■「エロでいいんじゃない? でもって、コメディーで」

 せっかく参加させてもらうのなら、同じ過ちを繰り返すのでは芸がない。今作は企画の段階から関わらせてもらい、「エロでいいんじゃない? でもって、コメディーで」と、監督に伝えました。たとえ脚本が難しくても、エロとコメディーの要素を取り入れたら、なんとかなるんじゃないかって。それに日活といえば、ロマンポルノですからね。そんな相談をさせていただいたら、監督の構想とも合致したんです。

 ――70歳の主人公は長らく機能不全で満足に女性を抱くことも叶わない、いわゆるEDの悩みを抱えています。同じ男性として共感できるところは?

 僕も60代半ばになり、自分の下半身が思うようにいかないっていう気持ちは、少なからず分かります。ただ、江崎っていうオヤジは僕なんか比にならないぐらい頑固で用意周到なの(苦笑い)。欲望を満たすため、気も狂わんばかりのアイデアをもって“濃厚接触”を試みるわけですが、そのアグレッシブさは尊敬に値します。でも、小宮孝泰が同じ立場になったら? と考えると、少なくとも相手の気持ちを確認し、合意を得た上で挑みたいなあ。

戦略なし、本音で生きる

 ――江崎はその欲求と肉体や、裏と表のアンバランスさが魅力でもあります。

 確かにその通りで、川越ゆいさん演じるヒロインには裏表はないし、永里健太朗君が演じるガンジーを崇拝する若者もちょっと思考回路がヘンな人だから、映画の中で裏表があるのは主人公だけ。そういう意味では、本音と建前を使い分けている人物です。

 ――ちなみにご自身は、私生活で本音と建前を使い分けたり?

 僕は使い分けられないタイプです。だって、嘘つけないし、すぐ顔に出ちゃう(苦笑い)。だから、人間相手にやる賭け事は全部ダメなんですが……ただ、文章だとちょっと違うかな。文章はいくらでも本音と建前を使い分けられるし、本音と建前の間を行くこともできる。たとえば「あんまり嘘をつき過ぎたくないな」という表現ひとつとってもそうでしょう?

 ――11年間の闘病の末、2012年に乳がんで永眠された夫人との日々を綴った「猫女房」(秀和ビジネス)を出版されています。

 このタイトルは猫が好きだった妻にちなんでつけました。出会いから別れまでを描き、彼女が撮影した写真も載せたりしたんですが、それだって書ききれないこと、書いちゃいけないことはやっぱり書いていない。書けませんでした。文章を書く上での本音と建前は多少なりともありますが、生きて行く上で戦略的に本音と建前を使い分けられるかどうかと聞かれたら、うん、やっぱりできないですね。

 ――映画の主人公のような同年代の方に伝えたいことは?

 年を重ねてからも、やれること、やってみたいことはいろいろあるでしょう。それこそ年老いてからエッチな欲望が掻き立てられたりね。金銭的にゆとりがあれば、それに越したことはないだろうけれど、なくたって、夢を抱くのは自由。悔いたり臆することなく、夢の実現のために貪欲でありたいですね。

■トレーラーハウスはいらない。ただ英語で芝居がしたい

 ――小宮さん自身の夢は?

 芝居ですね、やっぱり。特に映画は、これからもたくさんの作品に出演したいと考えています。英語圏のフィルムにも参加したいので、04年にロンドンへ演劇留学するなど、英語で芝居する勉強を続けています。でも、メーンキャストでトレーラーハウスを用意してもらいたいっていう話じゃないんです。ただ、台詞があればいい。それでね、共演者やスタッフと英語でコミュニケーションが取れたら最高だなって思っています。

(取材・文=キタハラ/ライター)

▽小宮孝泰(こみや・たかやす) 1956年3月生まれ、神奈川県出身。明治大学文学部英米文学科卒。劇団テアトルエコーを経て、1980年、コント赤信号として「花王名人劇場」でテレビデビュー。30代からは俳優の活動に軸足を移し、舞台や映画・ドラマに出演。最近は自身の舞台プロデュースや英語劇、そして役者の落語会も盛んに行っている。

 ◇  ◇  ◇

■「桃源郷的娘」(アルミード配給)
監督・脚本・編集:太田慶/出演:小宮孝泰、川越ゆい

■「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2019」オフシアター・コンペティション部門で北海道知事賞受賞。1月21日(金)よりアップリンク吉祥寺ほかにて公開。

■関連キーワード

最新の芸能記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • 芸能のアクセスランキング

  1. 1

    国分太一が「世界くらべてみたら」の収録現場で見せていた“暴君ぶり”と“セクハラ発言”の闇

  2. 2

    沢口靖子「絶対零度」が月9ワースト目前の“戦犯”はフジテレビ? 二匹目のドジョウ狙うも大誤算

  3. 3

    創価学会OB長井秀和氏が明かす芸能人チーム「芸術部」の正体…政界、芸能界で蠢く売れっ子たち

  4. 4

    “裸の王様”と化した三谷幸喜…フジテレビが社運を懸けたドラマが大コケ危機

  5. 5

    国分太一は人権救済求め「窮状」を訴えるが…5億円自宅に土地、推定年収2億円超の“勝ち組セレブ”ぶりも明らかに

  1. 6

    人権救済を申し立てた国分太一を横目に…元TOKIOリーダー城島茂が始めていた“通販ビジネス”

  2. 7

    菅田将暉「もしがく」不発の元凶はフジテレビの“保守路線”…豪華キャスト&主題歌も昭和感ゼロで逆効果

  3. 8

    葵わかなが卒業した日本女子体育大付属二階堂高校の凄さ 3人も“朝ドラヒロイン”を輩出

  4. 9

    後藤真希と一緒の“8万円沖縄ツアー”に《安売りしすぎ》と心配の声…"透け写真集"バカ売れ中なのに

  5. 10

    結局、「見たい人だけが見るメディア」ならいいのか? 「DOWNTOWN+」に「ガキ使」過去映像登場決定で考えるコンプライアンス

もっと見る

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    新生阿部巨人は早くも道険し…「疑問残る」コーチ人事にOBが痛烈批判

  2. 2

    大谷翔平は米国人から嫌われている?メディアに続き選手間投票でもMVP落選の謎解き

  3. 3

    阿部巨人V逸の責任を取るのは二岡ヘッドだけか…杉内投手チーフコーチの手腕にも疑問の声

  4. 4

    大谷翔平の来春WBC「二刀流封印」に現実味…ドジャース首脳陣が危機感募らすワールドシリーズの深刻疲労

  5. 5

    巨人桑田二軍監督の“排除”に「原前監督が動いた説」浮上…事実上のクビは必然だった

  1. 6

    阪神の日本シリーズ敗退は藤川監督の“自滅”だった…自軍にまで「情報隠し」で選手負担激増の本末転倒

  2. 7

    維新・藤田共同代表にも「政治とカネ」問題が直撃! 公設秘書への公金2000万円還流疑惑

  3. 8

    35年前の大阪花博の巨大な塔&中国庭園は廃墟同然…「鶴見緑地」を歩いて考えたレガシーのあり方

  4. 9

    米国が「サナエノミクス」にNO! 日銀に「利上げするな」と圧力かける高市政権に強力牽制

  5. 10

    世界陸上「前髪あり」今田美桜にファンがうなる 「中森明菜の若かりし頃を彷彿」の相似性