著者のコラム一覧
荒木経惟写真家

1940年、東京生まれ。千葉大工学部卒。電通を経て、72年にフリーの写真家となる。国内外で多数の個展を開催。2008年、オーストリア政府から最高位の「科学・芸術勲章」を叙勲。写真集・著作は550冊以上。近著に傘寿記念の書籍「荒木経惟、写真に生きる。荒木経惟、写真に生きる。 (撮影・野村佐紀子)

<95>夫婦、おばあちゃんと孫が作る関係…オレは黒子じゃないけど消えちゃうんだねぇ

公開日: 更新日:

「日本人ノ顔」プロジェクト(4)

「日本人ノ顔」を撮り始めたら、「ヌードは卒業したんですか?」って、よく聞かれたんだよね(笑)。顔こそ究極のヌードなんだよ、一番さらしてるからね、顔は。一番のヌードっつうか、エロスは、顔なんだよ。

「日本人ノ顔」は、アサヒペンタックス6×7に三脚つけて、フィルムは2本、10カットで合計20カットを撮ったんだ。

 最初の、フィルム1本目のときは、向こうからきたまんまの“顔”を、複写するように撮るの。それで、次の1本は、オレが何かバカなこと言ってね、笑わせたりとか何とかして、すっごく楽しい、相手のプラスの面を引っ張り出す。幸せの部分を引っ張り出すっていうような撮り方をする。この二通りをやってね、ここが難しいのは、写真展とか写真集に写真を出すときに、どっちを出したら、その人の“顔”かっていう問題になるわけ、“日本人ノ顔”かってね。で、オレは後半に撮った、オレとの“時”を持った顔を選んだ、だいたいね。こっちの、自分の気持ち、情ね、情を断ち切るっていうことをしたくない。情を込めて撮ったほうのが写真っていうことに近いんじゃないかってね。

撮るときはサシだ!と思ってたんだけど…

「日本人ノ顔」は、最初は顔、顔だけでいこうと思ったのよ。ところがさ、いろんな人が撮ってくれって来るわけ。若い夫婦とか、年を重ねた夫婦、ファミリーとかね。オレは、被写体とオレの愛情関係だから、撮るときはサシだ!と思ってたんだけど、夫婦とか恋人同士とか、おばあちゃんと孫とか、そういうことになってくると、オレは黒子じゃないけど消えちゃうんだねぇ。夫婦とか恋人同士とか、おじいちゃんと孫が作る関係にかなわないんだよ。

 だから、顔、顔っつうんじゃなくて、だんだんそういう関係をただ素直に撮ればいいっていうことに気づくっていうか、向こうに教えられたんだね。

 お互いが作りあった笑顔なんだよ。お互いが作ったの。愛することによって、顔がいい顔になっていくわけ。そばに愛する人がいる、愛される人がいるっていう関係。

「日本人ノ顔」を始めて教えられたね。オレは、顔撮る相手との関係性、被写体との時間とか空間、いい時を過ごしたっていうことに気をつけて撮ってるんだけど、結局、向こう側の関係性、被写体の関係性のほうが強いんだよね。最後は、幸福論になっちゃうのよ、オレの場合は。やっぱりね、幸せな写真がいいよな。

(構成=内田真由美)

最新の芸能記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    巨人が李承燁コーチ就任を発表も…OBが「チグハグ」とクビを傾げるFA松本剛獲得の矛盾

  2. 2

    マエケンは「田中将大を反面教師に」…巨人とヤクルトを蹴って楽天入りの深層

  3. 3

    ドジャース首脳陣がシビアに評価する「大谷翔平の限界」…WBCから投打フル回転だと“ガス欠”確実

  4. 4

    SBI新生銀が「貯金量107兆円」のJAグループマネーにリーチ…農林中金と資本提携し再上場へ

  5. 5

    阿部巨人に大激震! 24歳の次世代正捕手候補がトレード直訴の波紋「若い時間がムダになっちゃう」と吐露

  1. 6

    陰謀論もここまで? 美智子上皇后様をめぐりXで怪しい主張相次ぐ

  2. 7

    白木彩奈は“あの頃のガッキー”にも通じる輝きを放つ

  3. 8

    渋野日向子の今季米ツアー獲得賞金「約6933万円」の衝撃…23試合でトップ10入りたった1回

  4. 9

    12.2保険証全面切り替えで「いったん10割負担」が激増! 血税溶かすマイナトラブル“無間地獄”の愚

  5. 10

    日本相撲協会・八角理事長に聞く 貴景勝はなぜ横綱になれない? 貴乃花の元弟子だから?