読書の幅が広がること間違いなしの文庫アンソロジー特集

公開日: 更新日:

「豊臣家族」今村翔吾、木下昌輝ほか著

 年末年始にじっくりと読書を楽しむ計画を立てているなら、まずはアンソロジーを手に取ってみるのはいかが。これまで読んでこなかった作家の魅力と出合えたり、好きなテーマの物語が見つかったりと、読書の幅が広がること請け合いだ。時代物からミステリーまで、選りすぐりのアンソロジーを紹介する。

◇

「豊臣家族」今村翔吾、木下昌輝ほか著

 2026年の大河ドラマは、豊臣秀吉の弟・秀長が主人公だ。本書では秀吉に負けず劣らず波瀾万丈な人生を送った豊臣家ファミリーの生きざまを、6人の作家陣が描いている。

 野良仕事や肥やし作りで家族を支えていた小一郎は、13歳になると地元の名家の娘・初の中間(奉公人)となる。ふたりは幼馴染みで、口には出さないがお互い憎からず思う間柄だった。そんな時、音信不通だった兄の藤吉郎が突然現れ、大名を目指す自分を支えろと言う。初の元を辞して織田信長の幕下に加わり、出世していく小一郎だが、ある時ふと、これは自分の望んだ人生だったかと振り返り……。(谷津矢車著「小一郎と天下と藍と」)

“殺生関白”と言われる乱行を繰り返した秀吉の甥・秀次の人物像を掘り下げる「一の人、自裁剣」(宮本昌孝著)、秀吉の糟糠の妻・おねの視点から豊臣家の終焉をつづる「ゆめの又ゆめ」(白石一郎著)など、知られざる豊臣家の姿を描き出す。 (PHP研究所 957円)

「Jミステリー2025 FALL」誉田哲也、葉真中顕ほか著

「Jミステリー2025 FALL」誉田哲也、葉真中顕ほか著

 6編からなるミステリーアンソロジー。

 誉田哲也の「それはない」は、「ストロベリーナイト」に始まる姫川玲子シリーズの最新話である。捜査第1課殺人犯捜査係に所属する魚住久江に、主任の姫川玲子から呼び出しがかかる。国立市の富士見台で立てこもり事件が発生したが、マル被(被疑者)が女性らしいのだ。

 女性警察官が少ない上、特殊犯事件に対処できる捜査員は極めて数が限られてくる。姫川と共に立てこもり現場に向かう魚住。しかし、23歳の息子が家の中で見知らぬ女に包丁を突き付けられているという母親からの通報以外、マル被の身元も分からない不可解な事件だった。

 映像化作品の多い葉真中顕の「21グラム」は、幽霊の見える女子大生が主人公。友人が隣室で殺害され、幽霊となって現れたため警察に通報するのだが、逆に疑いをかけられて取り調べを受けてしまう。

 豪華な作家陣による全編新作書き下ろしの一冊だ。 (光文社 1540円)

「ずっしり、あんこ」池波正太郎、平松洋子ほか著

「ずっしり、あんこ」池波正太郎、平松洋子ほか著

 あんこを愛してやまない39人によるエッセーアンソロジー。

 池波正太郎が役者と芝居の相談をする場には、酒か甘味があったという。だいたいは杯を重ねながら話を詰めていくのだが、酒のダメな役者もいて、そんな時は汁粉をやりながら語り明かしたそうだ。

 酒も甘味もイケる池波だったが、若い頃は女の客で充満している汁粉屋などに入るのはみっともない気がして、身を縮めて食べては脱兎のごとく逃げ出していたという。しかし、60歳も近くなれば周囲の目など構ったものではなく、堂々と汁粉を楽しめるようになったとつづる。

 手塚治虫もこっそりあんこを楽しんでいた派。チョコレートも乱食していたが、これは眠気覚まし用。好物は芸術的に美しい和菓子だった。しかし、飲み会の帰りに和菓子屋に寄ろうとするとみんなが冷やかすので、「なあに、家内と年寄り用の土産にね」などとごまかして買っていたとか。

 読後は間違いなくあんこが食べたくなる。 (河出書房新社 935円)

「旅する小説」宮内悠介、藤井太洋ほか著

「旅する小説」宮内悠介、藤井太洋ほか著

 小学校からの僕のあだ名は「韓国さん」。長崎県対馬で父のいない子として生まれたが、母が韓国人の経営する民宿に勤めていたのでそう呼ばれていた。26歳の頃、がんで入院した母から父のものだという住所を渡された。その場所は、釜山。父と母が離れ離れになった理由を聞くため、僕は父の元へ向かった。(宮内悠介著「国境の子」)

 ずっと昔、天体の衝突により地球の自転が停止。太陽が当たり続ける場所は灼熱の地獄となり、光の届かない場所は酷寒の暗闇となった。そこで人類は、地球をぐるりと一周するレーンをつくり、船で“昼と夜の境目”を移動し続けながら生きる道を選んでいた。(小川哲著「ちょっとした奇跡」)

 20年前の家族旅行を私が強く記憶しているのは、家族でいられた最後の夏だったから。そして12歳の私が、あの放火事件を起こしたからだった。(森昌麿著「グレーテルの帰還」)

 あらゆる境界線を飛び越えることをテーマとした、6編の物語。 (講談社 990円)

【連載】ザッツエンターテインメント

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • BOOKSのアクセスランキング

  1. 1

    一度は行ってみたい世界遺産、飛鳥・藤原の宮都を知る本特集(2)遺跡から浮かび上がる古代人の日常

  2. 2

    一度は行ってみたい世界遺産、飛鳥・藤原の宮都を知る本特集(3)失われた宮都の景観をCGで再現

  3. 3

    一度は行ってみたい世界遺産、飛鳥・藤原の宮都を知る本特集(4)古代日本の礎を築いた6人8代の女性天皇

  4. 4

    (65)扇の緑の松がちらちら見え隠れ

  5. 5

    当事者視点から学ぶ規格外を排除する社会の病「認知症の進行を早める生活、遅らせる習慣」丹野智文、恩蔵絢子著/中央法規出版(選者:稲垣えみ子)

  1. 6

    一度は行ってみたい世界遺産、飛鳥・藤原の宮都を知る本特集(1)飛鳥はなぜ宮都に選ばれたのか

  2. 7

    こころの本屋(豊島区・東長崎)「自分の盛大な積ん読本というか『読みたい』と思った本を仕入れています」

  3. 8

    「その犬をください」逢坂冬馬著│明治から令和までの人間と犬の姿を描く連作集

  4. 9

    さまざまな表情を持つアキハバラの深奥に迷い込む「電影都市秋葉原」Junya Watanabe著

  5. 10

    「書かなきゃいけない 日航123便墜落、41年目の真相」青山透子著│事故調査報告書にはいくつもの矛盾が

もっと見る

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    日テレ河村亮アナと菅谷大介アナは50代で死去…「俺たちの箱根駅伝」放送開始で改めて追悼の声

  2. 2

    グダグタの横浜市長選…「組織戦の“素人”候補vsカジノ争点化に躍起のパワハラ前職」の展開で終盤戦へ

  3. 3

    ついにハシゴ外した高市首相…簗農相の予算委ポンコツ答弁が「クビ切り」の決定打に

  4. 4

    「救命病棟24時」江口洋介復帰で初回2ケタも…松嶋菜々子不在の第2シリーズが“歴代最高”、松雪泰子の「香坂先生」待望論

  5. 5

    “クズキャラ”芸人は消滅する…「TKO」木下隆行に続く「我が家」杉山裕之の寂しい末路

  1. 6

    横浜・織田翔希はNPB入りなら工藤中日が最適か…吉井楽天も魅力、阪神とオリには不安材料

  2. 7

    中日ナインは“理屈屋”工藤公康新監督についていけるか? 圧倒的知識量と裏方も心酔する人心掌握術

  3. 8

    工藤公康新監督の成否のカギ握る雅子夫人の「内助の功」 中日特有の“面倒臭さ”にはあの落合博満氏も苦しんだ

  4. 9

    阪神に「甲子園のDeNA」という鬼門…佐藤輝、森下、大山の中軸がそろって“借りてきた猫”状態

  5. 10

    元timelesz猪俣周杜の素行の背景 “王道アイドルとは雲泥の差”メン地下アイドルの闇

おすすめ求人情報

「賞与年2回」最高年収900万円の実績あり!未経験から高収入を狙える電気工事士・土日休み
有限会社原田電機 千葉県 八千代市 正社員
月給25万円~75万円
焼鳥イタリアンバルのホールキッチン/月8日休み/インセンティブ支給/高収入
株式会社フード&マーケティング 大阪府 大阪市 正社員
月給40万円~85万円
電子部品製造/未経験でも高収入が叶います
株式会社ワールドインテック 長野県 小諸市 契約社員
時給1,250円~1,400円
倉庫内作業スタッフ/高収入/20代30代活躍中
株式会社三花 埼玉県 さいたま市 正社員
月給26万5,000円~39万5,000円
Sponsored by 求人ボックス