Benchtime books(西荻窪)正宗白鳥、獅子文六ら「持つこと自体に意味があった時代の本」が静かに佇む
戦後早い時期の建物かも。そんなにおいのする2階建ての路面店だ。夕方に訪れると、ガラス戸の向こうに、淡い明かりが本や紙製品を照らしていた。しかも店内のすべての調度が昭和な感じの木製。
思わず、「佇まいがすてきです」と申し上げる。
「ここ、古道具屋でした。私も通っていたんですが、閉店されることになって、『古本屋さんなんかどう?』と声をかけてもらいました」と、店主の高田泰輔さん(38)が鷹揚な口調で。
以前はストップモーションアニメの仕事をしていた。作家志望。この店は6年になる。そんなふうにつないだ高田さんの言葉を、店内の本の数々が、静かに聞いている、と思った。
正宗白鳥「歓迎されぬ男」、獅子文六「可否道」、室生犀星「杏っ子」、新村出「南蛮更紗」……。大正~昭和中期に世に出た、貴重な小説本が並んでいた。谷崎潤一郎「夢の浮橋」も棟方志功の版画の表紙を見せている。
「本が大量出版できず、高価で、持つこと自体に意味があった時代の本ですね。装丁にも思い切り凝った。芸術が今みたいに文学、演劇、絵画などに細分化されていずに」との説明が、高田さんの目指す肝だと徐々に分かった。「(商業出版が)一回りして、本屋自身が丁寧に本を作って売っていく時代に、今、向かっているんじゃないでしょうか」と。店の一隅を工房とし、自ら企画したリトルプレス本、そして木版によるしおりやカード、レターセットなども作っているのだ。
本を読む時間は「人生のベンチタイム」
高田さん自身が提供するもの以外の棚の仕組みも独特だ。シェア棚ではあるが、一般的なそれとは違い、表現者が作品と、その作品制作過程で読んできた本を展示する方法をとっている。詩人の棚には現代詩だけでなくSFもミステリーも。陶芸家の棚には哲学書や民俗学の本も。おのおのがどんな本を読んで作品ができたのかを垣間見れるのだ。もちろん購入可。
「店名のベンチタイムって、パンを作るときに必要な、生地を休ませる工程のことなんです。本を読む時間や自分と向き合う時間……。それらすべてが『人生のベンチタイム』でしょう?」と高田さん。
帰り道、「取材とはいえ、あの店で過ごした時間そのものが、我々のベンチタイムだったよね」とカメラマンが言う。禿同!
◆杉並区善福寺1-4-1/JR中央線・総武線西荻窪駅北口から徒歩10分/正午~午後7時、月・火曜休み(祝日なら営業)
■ウチのオリジナル本
「旅人の手記」Yoshiko Kiya著
14~14.5センチで、ほぼ真四角。表紙には生成り色の風合いよい和紙が使われ、丁寧な和綴じがなされている。「ガラス瓶」「白昼の詩人」「角笛の男」など8編の詩を収録。
「妻が書いた、散文のような詩を編んだ詩集です。全部手作りです。というのは、1編ごとに入れた木版画の挿絵と、装丁は私が担当したから。シリアルナンバー入りで、この店だけで販売しています」
(1980円)



















