著者のコラム一覧
荒木経惟写真家

1940年、東京生まれ。千葉大工学部卒。電通を経て、72年にフリーの写真家となる。国内外で多数の個展を開催。2008年、オーストリア政府から最高位の「科学・芸術勲章」を叙勲。写真集・著作は550冊以上。近著に傘寿記念の書籍「荒木経惟、写真に生きる。荒木経惟、写真に生きる。 (撮影・野村佐紀子)

<96>空を撮る──バルコニーから見えた空に花を描いたの。「空花」だね

公開日: 更新日:

 これは、2011年まで30年間暮らした(世田谷区)豪徳寺のバルコニーからの眺め。豪徳寺のマンションのバルコニーから撮った空だね。その空に花を咲かせたんだよ。白い雲も何にもないときの空を撮る。その写真を伸ばして、どうしても花を描きたくなっちゃって、花を描いたの。「空花」だね。でも、ふと見ると、これ、花火に見えるでしょ?花を描いたのかなって思ったんだけど、後で気がつくと、これは花火だね。

 ていうのは、小さい頃、子供の頃は隅田川の花火がよく見えたわけ、(台東区)三ノ輪の家から。それが頭のどこかに残ってるんだ。子供の頃、花火が好きで、よく家の屋根に登って親父たちと一緒に花火を見てたんだよね。スイカを食いながら、見てたのよ。それが一番楽しかったんだ。

5才くらいの時に空襲があった。空が真っ赤になったんだよ。

 それとね、5才くらいの時に空襲があったんだけど、その時に友だちの家が焼けて、空が真っ赤になったんだよ。その赤がすごく頭に焼きついててさ。近所に焼夷弾かなんか、火事になる爆弾が落とされるのよ。パーッてそこらじゅう火事になる。うちは焼けなかったけど、ちょっと遠い隣近所が焼けたんだ。ホントに空が真っ赤になるからねぇ。空は赤いんだよ、オレにとっちゃあ。

 そういう記憶が、この作品には入りこんでるんだよ。だから、知らないうちに空に花火を描いてるんだよね。「テーマはこうだ!」って考えてやるヤツがいるけど、オレはそうじゃない。オレは、まずやっちゃうんだよ。で、後で気づかされるんだね。この「空花」もそうなんだよ。

(構成=内田真由美)

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