「『腹八分目』の生物学」小幡史明著
「『腹八分目』の生物学」小幡史明著
「腹八分目」とは、満腹になる手前で食べるのを抑えるのが健康に良いということだが、なぜ食べすぎは良くないのかは実はよくわかっておらず、長年研究者を悩ませてきた生物学的問いだという。食べすぎによるダメージの最たる例は老化である。本書は腹八分目で老化を防げるのかから始まり、どのような栄養素をどう摂取すれば老化を抑えることができるのかまで、現代生物学の最新の知見を踏まえながら紹介したものだ。
腹八分目と老化抑制の実験はすでに20世紀初頭に行われている。食餌制限をしたラットとそうでないラットを比較したところ、食餌制限した方が寿命が延長していた。カロリー制限をすれば寿命が延びることは、ラットだけでなくハエ、ミジンコ、線虫、果ては単細胞の酵母にまで見られることが証明された。次に考察すべきは、食餌中に含まれるどの主要栄養素(炭水化物、脂質、タンパク質)が寿命延長の鍵となるのか、だ。
流通しているダイエット法からすると、脂質と炭水化物を制限するのがいいと思う人が多いかもしれないが、正解はタンパク質。タンパク質は20種類のアミノ酸から構成されているが、その中からさらにどのアミノ酸が関係しているのかが、次なる課題となる……。そうやって次々に実験を重ねて究明していくさまは、犯人を絞って徐々に追い詰めていくようなスリリングさがある。
とはいえ、タンパク質の摂取を控えれば即寿命延長につながるのかというと、そうではない。低タンパク質で死亡率が下がるのは65歳以下に限られ、65歳以上ではむしろ高タンパク質食の死亡率が低いことが明らかになっている。
また、成長期に食餌制限をかけた動物は、個体サイズが小さく成長が阻害され、性成熟が遅れるというマイナス面もある。要は、生物の成長の仕組みは非常に複雑で、こうした理論の実践も「腹八分目」に収めるのが肝要ということだ。 〈狸〉
(岩波書店 1540円)



















