「田中角栄」早野透著/中公新書(選者:佐高信)
高市首相に学んで欲しい角栄の度量
「田中角栄」早野透著/中公新書
高市早苗は田中角栄と正反対だ。田中は自民党の総裁選を前に「国民への提言」を発表した。その中で、日本は軍事大国を目指すべきではなく憲法9条を対外政策の根幹に据える、将来とも核兵器を持つべきでなく非核三原則を貫くと主張している。高市のやっていることと真逆だろう。時代が違っているのではない。高市があまりに単細胞で近視眼なのである。
外務省のアジア局長をやり、日本の対アメリカ外交と対中国外交をバランスさせようとした谷野作太郎はこう言った。
「アメリカは中国とケンカしても1年で元の関係に戻れる。しかし、日本は中国とケンカしたら10年は元に戻れない」
田中が周恩来と会談した時、周は「日本人民に賠償の苦しみを負わせたくない」と言ったのである。それなのに石原慎太郎らの反共タカ派は中国との国交回復に反対し、田中には暗殺の危険さえあった。高市は石原の系譜を継ぐ台湾派で、政治的にも経済的にも中国との関係がどれほど大事かが分かっていない。吉田茂は「私は再軍備など考えること自体が愚の骨頂であり、世界の情勢を知らぬ痴人の夢であるといいたい」とまで「回想十年」に書いているではないか。
「東京タイムズ」の記者から転じて田中の秘書となった早坂茂三は、田中が政調会長だった時、記者として田中が困るスクープ記事を書いた。その後、玄関払いされるのを覚悟で家に行くと応接間に通された。
「新聞記者は書くのが商売。政治家は書かれるのが商売だ。こんどの勝負は君の勝ちだ。しかし、心配するナ。騒ぎはじきに片づく。野党がオレの首など取れるはずがない。それにしても、よく来てくれた。お互い友だちになれそうだ」
こう言って笑った田中に早坂は魅せられる。
総務大臣時代、政府批判をしたテレビに対して免許取り消しの停波発言をした高市との何という違いだろう。
「人が10人集まれば1人ぐらいは共産党がいるもんだ」という田中の発言も世間をよく知っていると感じさせて奥深い。
しかし、高市は発言も行動もとにかく危なっかしい。私は遮眼帯を着けた競走馬を連想する。とにかく周りが見えていないのである。見えていないだけでなく、見ようともしていない。緊急にこの本を読んで田中角栄に学んで欲しいと思うばかりだ。
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