長澤まさみ主演「ドールハウス」 古びた人形が仕掛ける恐怖の心理戦
そもそも女児を失った母親が、身代わりの人形を手に入れて急に笑顔を取り戻す展開が悲しい。その悲しさが気味の悪さを増幅させる。
しかも人形の造形が不気味だ。顔は無表情。古びた木箱に入り、卒塔婆のような紙に魔除け文字が書かれている。大昔のいわくつきの人形だ。得体の知れない何者かがスクリーンの手前や奥を素早く行き交う上に、佳恵に暴力的な妄想まで植えつける。人形を捨てようとしても戻ってくる。
げにも恐ろしき怨念かなと見つめていたら、中盤から呪禁師(田中哲司)が登場。物語は第2幕に突入し、さらに二転三転して謎を解いていく。観客の予想を裏切りながら見せ場を連発する快作は上映時間1時間50分。次から次へと物語が展開するため、息をつく暇もない。恐怖の波状攻撃だ。
よく書かれた脚本だと思って資料を見たら、脚本・監督は矢口史靖だ。矢口監督といえば「スウィングガールズ」「ロボシー」などのコミカルな作品をイメージするが、本作のようなシリアスな心理劇も作れるとは。その才能に改めて脱帽だ。
昔から「目鼻のあるものを粗末に扱ってはいけない」と言われる。人形には魂が宿っているという意味だ。筆者などは子供のころ、髪の毛が伸びるお菊人形の実話を聞いて鳥肌が立った経験があるため人形怪談話は苦手だ。苦手だから、この「ドールハウス」は楽しめた。