「BAD GENIUS/バッド・ジーニアス」貧しい移民少女が白人富裕層を巻き込む痛快カンニング劇
天才が出てくる映画はやはり面白い
本作を小気味よく盛り上げているのが音楽だ。リンはピアノの天才でもあり、音楽理論を習熟している。その知識を使って仲間たちに答えを信号として送信。「なるほどなぁ」と唸ってしまう奇想天外な発想だ。この音楽理論と劇中の音楽がうまく絡み合い、スリリングな展開を盛り上げてくれる。音楽と映像、ストーリーの見事な融合だ。
リンの天才性が爆発するのが後半のSAT場面。難関な試験に立ち向かい、さらにハラハラドキドキの見せ場を突きつける。オリジナル版と違うラストが用意されているため、前作を見た人も満足できるだろう。ネタばらしはできないが、ラストのリンはすこぶるかっこいい。
天才が出てくる映画は面白い。「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」(2002年)や「ラスベガスをぶっつぶせ」(2008年)など常人離れした頭脳を題材にした作品は数多くある。その中でもこの「BAD GENIUS」は特に痛快だ。理由は登場人物の造形にある。
主人公のリンは中国系移民の娘で父親と二人暮らし。秀才のバンクはナイジェリア出身の黒人移民で母親と二人暮らしをしている。米国という国家でともに貧しい生活を余儀なくされるマイノリティーの男女が、白い肌の金持ちのボンボンや跳ね返り娘たちを高得点に導く。大げさにいえば下剋上の物語。繰り返すが、痛快である。
学歴コンプレックスを抱え人種差別に余念のないトランプ信者たちは、この映画を苦々しい思いで見ているのだろうか。その心中を覗き込みたくなる。(配給:ギャガ)
(文=森田健司)