坂東玉三郎「火の鳥」は、演出と俳優の力で見応えあるものに
8月の歌舞伎座は納涼歌舞伎で3部制。普通の歌舞伎ではないものが2本、上演されている。
第2部は、坂東玉三郎が主演・演出の新作『火の鳥』。手塚治虫のマンガとは関係なく、オリジナルの作品だ。
どこの国・どの時代かは明確ではない、ある王国が舞台。病に伏している大王(松本幸四郎)が、息子のヤマヒコ(市川染五郎)とウミヒコ(市川團子)に、永遠の力を持つという伝説の火の鳥を捕らえるよう命じる。2人はいくつもの国を旅し、ついに火の鳥(玉三郎)を見つける。
すばらしいのは、2人が火の鳥を求めて森や海や山など険しい自然を旅するシーン。スクリーンに自然の映像を投影し、その向こうに2人がいるという、最新技術を駆使してのもので、吉松隆の音楽を含め、リアルかつ幻想的な世界が展開され、見応えがある。
火の鳥の登場は中盤からで、全身が真っ赤な衣裳。舞台に登場した瞬間から、鳥に見えてしまうのは、指先まで動きが完璧に計算されているからだろう。
終盤は、火の鳥と大王の、「永遠」をめぐっての問答で、「戦争はいけない」という、当たり前の結論になる。こんな時代だからこそ、そう言いたくなるのは分からなくもないが、セリフでストレートに言うのは、演劇としての敗北ではないのか。脚本はともかく、演出と俳優の力で、見応えのあるものになった。