(10)東京・銀座のハイボール
手間のかかった原稿をようやく書き切った。どっと疲れが出ていたが、こんなときこそ、飲みたくなるものだ。
早くから銀座へ出て、次の仕事の打ち合わせをするのに選んだ店は、2丁目、並木通りのビルに入っているバーである。店名は「たか坂」という。オーナーバーテンダーの高坂壮一さんは、銀座三笠会館の地下にあった「バー5517」で、名バーテンダー稲田春夫氏を師と仰いだ。今は50代のベテランだが、私が初めて会ったときはまだ20代だった。かく言う私も30代だった。長い付き合いだ。彼の前で飲むときは、とても落ち着く。
明るいうちからの酒は、うまい。2杯、3杯と飲むうちに、酒はさらにうまくなる。これでは夜までもたないと思いつつ、3杯が4杯になり、いくらなんでもウォーミングアップで5杯は多いと戒めて店を出た。
連れがふたりいて、何か食おうという話になった。並木通りの向かいに「三州屋」がある。細い路地の突き当りの店だ。小腹が減っているから、ここでアジフライとマグロ刺しでも腹に入れよう。そう思って扉を開けたが、3人は席がとれなかった。
さて、どうする。蕎麦屋、おでん屋、思いつくところに電話をしてみるが、師走の午後7時。どこもいっぱいである。
「ロックフィッシュでサンドウィッチ食べましょうよ」
同行の1人が言った。大変な人気店だから、行ってみたところで満席だろうと思ったが、行ってみたら、スタンディングのカウンターではなく、テーブルに空きがあった。

















