「大統領暗殺裁判 16日間の真実」軍法裁判と全斗煥の野望を暴いた衝撃作

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思うのは、歴史の真実を忘れてはならないということ

 チョン弁護士は自分が何をなすべきかに気づく。だが当の被告人パク・テジュは軍人の矜持を守ろうとし、それゆえ自分を不利に追いやる。この方針に異を唱えるチョン弁護士との対立も本作の見どころだ。法廷では「上官(金載圭)の命令に従った」と主張するパク・テジュを検察側が追いつめ、さらには内乱罪かどうかの議論に至る。

 紆余曲折を経て明るい光がきざしたところにクーデターが勃発。不勉強な筆者はあのクーデターに軍法裁判の成り行きが関係していたことを初めて知った。それだけでも本作を見る価値がある。

 言うまでもないことだが、日本人は1945年の敗戦によってGHQから民主主義を与えられた。これに対して韓国は数多くの市民活動家が血を流して独裁政権から民主主義を勝ち取った。それゆえ独裁への揺り戻しに敏感だ。その好例が昨年の尹錫悦による非常戒厳事件だった。

 韓国の映画界も民主主義を重んじ、かつての暗黒時代を批判する作品を数多く生み出してきた。「KCIA 南山の部長たち」「1987、ある闘いの真実」「タクシー運転手 約束は海を越えて」「ソウルの春」などなど。未見の人は週末に本作とまとめて鑑賞してはいかがだろうか。

 話は横道にそれるが、朴正煕暗殺の2カ月後、韓国では全斗煥による軍事クーデターが勃発した。12月12日に全斗煥が動き始め、翌13日から韓国は再び暗黒時代となった。“ソウルの春”は軍部に蹂躙され、民主化を求める良心的な市民は絶望に追いやられた。

 その12月13日、日本ではテレビの「ザ・ベストテン」(TBS)に久保田早紀が初出演した。10月にリリースした「異邦人」が5位にランクインしたのだ。筆者もリアルタイムで番組を見て「久保田早紀は美人だなぁ」と感嘆したものだ。そんな平和なひとときに、韓国は地獄の初日を迎えていたことになる。

 この「大統領暗殺裁判――」から思うのは、歴史の真実を忘れてはならないということだ。韓国国民が民主化を求める中、理不尽な裁判が行われ、全斗煥をのさばらせてしまった。権力者は己れの欲望のためなら国民の命をいとも簡単に抹殺できる。こう考えながら東條英機が中野正剛を自殺に追いやった「中野正剛事件」(1943年)を思い出した。ことほどさように「重い映画」である。(配給:ショウゲート)

(文=森田健司)

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