澤田瞳子(作家)故郷も家族も奪われた13世紀バルトの少年の旅
5月×日 恐ろしいことに、すでに暑い。私の暮らす京都は元々暑さ厳しき街で、去年の猛暑日日数は61日。さて、今年はどうなるだろう。
そんな最中、皆川博子さんよりご新著「ジンタルス RED AMBER」(河出書房新社 3960円)をご恵贈賜った。19世紀ロシアで絵と文の才を磨く農奴の青年による、故郷も家族も奪われた13世紀バルトの少年の旅。重なり合う2つの異国に眩惑され、迫りくる炎熱の季節をひと時忘れられた。それにしても驚くのは今なお衰える気配のない皆川さんの執筆意欲だ。私は現在、皆川さんのちょうど半分の年齢。半世紀以上も作家として生き、常に新しきものに挑戦し続けるご姿勢は、ただただ敬愛申し上げるばかりだ。素晴らしい先輩作家を間近にし得るありがたさを改めて噛み締めた。
5月×日 選考委員を務める新田次郎文学賞贈賞式で東京へ。今回はホテルを吉祥寺に取った。
というのも、吉祥寺は新田次郎が暮らした街。近所には吉村昭も居を構えており、その縁から吉村は新田次郎文学賞創設時の選考委員も務めている。このため新田次郎と吉村昭、双方を尊敬する私からすれば、吉祥寺は憧れの地。だが胸躍らせて電車を降りれば、駅一帯はビルが立ち並び、家から富士山が見えると新田が記した長閑さは皆無だ。私の憧れが一方的なものとは承知しているが、あまりの繁華さに狐につままれた思いがした。
ただ、駅周辺には複数の書店が存在し、そのいずれもが賑わっている。嬉しくなってつい荷物が増えるのを忘れて本を買ってしまった。そのうちの1冊、「日本史の宝箱-史料をめぐる52の秘話」(中央公論新社 1210円)は東京大学史料編纂所の研究者・技術者が、各時代史料の最先端技術や考証について記した、まさに知の宝物がいっぱいに詰まったような新書。ことに江戸時代の火山活動について取り上げた「海に出来た山、海を渡った津波」の章には、新田次郎の「怒る富士」や吉村昭の「三陸海岸大津波」などが思い出され、京都に戻ったならばぜひ読み返そうと心に誓った。



















