「わたしの脳のしつけ方 なぜあなたはしあわせを感じられないのか」菅原道仁著/扶桑社刊(選者:中川淳一郎)

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人間の脳は「他人と比較するようにできている」という気付き

「わたしの脳のしつけ方 なぜあなたはしあわせを感じられないのか」菅原道仁著/扶桑社/1760円

 ベストセラー「すぐやる脳」著者の脳神経外科医による一冊。何かと他人と比較し、幸せを感じられないことに悩む34歳の女性が、(動物の)ナマケモノが店長を務める喫茶店で幸せに生きる秘訣を導いてもらうストーリーが章ごとにまぶされ、そこから著者が「脳」のメカニズムについて解説を進める体で話は進んでいく。

 最終的にこの女性はラクに、そして充足感をもって人生を生きられるようになるのだが、現代のSNSが隆盛な時代にこそ、このような本が必要なのだろう。何かとSNSは他人との比較をもたらし、そして、中毒性がある。著者は「他人と比較をするな!」などと言うのではなく、脳科学の観点から「それは仕方がないことだ。なぜなら脳はそのようにできている。だからそのことを理解しましょう」といった助言をする。哲学の一派・ストア派に関する記述は生きる上で参考になるだろう。

〈自分がコントロールできるものといえば、自分の態度や行動、物事への注意の向け方など。一方、自分ではコントロールできないものは、他人の評価、世の中の景気、偶然の出会い、過去の出来事などです。

 前者に集中し、コントロールできないものだと割り切ることで、心のエネルギーを消耗せず、しあわせに生きられるのだと考えました〉

 満足のハードルを上げる「アンカリング(イカリを打つ)効果」こそが幸せを感じにくくする原因の一つだという。

〈友人が都心のマンションを購入したと知ったあとでは、いま住んでいる家が急に安っぽく感じられる。同年代の知人が年収1200万円と聞いたあとでは、自分の年収500万円が低く思えてしまう。結果、現実は何も変わっていないのに、いまの自分の生活が物足りなく感じられる。変わったのは状況ではなく、あくまで心のイカリの位置にすぎないのに、です〉

 となれば、余計な情報は知らないに越したことはないし、他人と比較をしても別に自分の人生が好転して幸せになるわけでもない、ということを気付かねばならない。それをこの女性が学んでいくさまが描かれていく。

 比較というものは一生続くものである。その点、高齢者の方が強いだろう。何しろ地位や収入よりも「健康」の方が大事になるからだ。「オレは貯金が200万円しかないが、元気ハツラツだ。貯金が1億円あって寝たきり状態にあるアイツよりも幸せだ」などと若い頃の悩みは捨てられるのである。長い人生の「しあわせ」のありようを考えさせてくれる。 ★★半

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