松井秀喜は「完全な努力型」だった…名伯楽が見た10代ゴジラの素顔と深夜の素振り

公開日: 更新日:

内田順三氏による「巨人広島名伯楽の作る育てる生かす」(第5回=2020年)を再公開

 日刊ゲンダイでは多くの球界OB、関係者による回顧録や交遊録を連載してきた。当事者として直接接してきたからこそ語れる、あの大物選手、有名選手の知られざる素顔や人となり。当時の空気感や人間関係が浮かび上がる。

 今回はあの松井秀喜氏について綴られた、内田順三氏による「巨人広島名伯楽の作る育てる生かす」(第5回=2020年)を再公開。年齢、肩書などは当時のまま。 

  ◇  ◇  ◇

 広島で打撃コーチを務めていた私に巨人からオファーが届いた。1994年、「ファームで若い選手を育てて1人でも2人でも上に押し上げて欲しい」と言われ、巨人の二軍打撃コーチに就任。やるからには中途半端は嫌だった。こちらから「単身で行くから寮に入れてください」と頼んだ。「そこまでしなくても近辺のマンションに住んでくれればいい」と返されたが、こっちも本気。「選手と寝泊まりを一緒にさせて欲しいんです。せっかく来たんだし、やらせてください」と折れなかった。

 広島時代、寮生には夕食後の19時から室内練習場で1時間ほど打たせ、私が自宅に帰る時間は21~22時だった。巨人の寮に入り、気になったのは、夕食が終わると若い選手が外に遊びに行ってしまい、門限まで帰ってこないこと。休みが少ない広島とは違い、巨人は週1で休養日があった。寮の地下にはマシン打撃ができる練習場とプールがある。「こんなに素晴らしい施設があるのに巨人はぬるいな」と感じた。

 私は当時の木戸寮長にこう頼んだ。

「休みの日は自由でいいです。でも、毎晩スイングをさせたいので、2階のふすまを取っ払ってください」

 2階には普段はほとんど使われていない畳の部屋が3、4部屋あった。そこを「素振り部屋」にしたいと寮長に言うと、ふすまを全部取り払ってくれた。

 大きな鏡も用意してもらい、そこで若手の村田善、鈴木尚らがスイングを繰り返した。ほぼ強制だから不満もあっただろう。それでもシーズン中は、夜も野球に没頭しないといけないというルールを作った。

 寮には高卒2年目の松井秀喜もいた。まだ本当のプロの体にはなっていなかったが、本格的にウエートトレーニングを取り入れていなくても筋力が強く、盛り上がった背中などは、すでにプロで10年やっているような体格。とても10代とは思えない貫禄があった。

 星稜高時代は甲子園で5打席連続敬遠されたことで騒がれ、連日マスコミに取り上げられていた。取材対応、言葉遣いなどはすでに大人だった。ただ、器用なタイプではなく、センスがあったとも言い難い。スイングをしながら自分の打撃をつくり上げたタイプ。完全な努力型だった。

 一軍のナイターが終わって寮に帰ってくると、食事をする松井から「内田さん、今日のバッティングはどうでしたか?」とよく聞かれた。

「構えた時、少し背中が丸まってたぞ」

「あの時のバットの軌道、構えはどうでした?」といったような話を食堂でした。その後、30分~1時間ほど素振りをするのが日課だった。すでに一軍選手だった松井は、私が若手の寮生に課した夜のスイングとは無関係だったが、深夜に自分からバットを振った。入団1年目の93年から約3年間、素振りを繰り返した「201号室」は、畳が擦り切れたまま、今も保存してある。

▽うちだ・じゅんぞう 1947年9月10日、静岡県生まれ。東海大一高から駒大。13年間の現役生活はヤクルト日本ハム、広島で主に外野手としてプレー。計950試合出場で打率.252、25本塁打。82年に現役引退、翌83年に指導者に転身。広島、巨人で打撃コーチ、二軍監督などを歴任し、多くのタイトルホルダーを育てた。2019年限りで巡回打撃コーチだった巨人を退団。

■関連キーワード

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • 野球のアクセスランキング

  1. 1

    戸郷が離脱、則本メッタ打ちで巨人が緊急補強へ…候補に挙がる「オリックス投手」の名前

  2. 2

    巨人エース戸郷翔征の不振を招いた“真犯人”の実名…評論家のOB元投手コーチがバッサリ

  3. 3

    大谷翔平のホワイトハウス訪問に思わぬ落とし穴…トランプ大統領の「余計な援護射撃」に要注意

  4. 4

    かつての「打率4割男」は期待外れで戦力外…西武・林安可は母国・台湾野手の低評価を覆せるか

  5. 5

    ソフトバンク「佐々木麟太郎シフト」着々…同ポジションの中村晃引退、山川穂高二軍塩漬けが伏線

  1. 6

    日本ハム伊藤大海が受けた甚大被害 WBC「本当の戦犯」は侍ジャパンのベンチだった!

  2. 7

    ベネズエラの剛腕マチャドが今オフ、オリックスとの契約満了で日米争奪戦に発展か

  3. 8

    阪神新助っ人ガルシアの“ガチ評価”…日本の独立リーグに流れ着いた“16歳ヤンキース入り”の元逸材

  4. 9

    ドジャース佐々木朗希「気持ち悪い」…クセバレに加え「直球の脆さ」「勝負弱さ」まで露呈

  5. 10

    半世紀の指導歴の中で今夏の専大松戸が「歴代最強チーム」になる条件…初戦は12日、四街道と戦います

もっと見る

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    麻生太郎が「皇室典範」改正を急ぐ理由は…“日本会議の30年の集い”に間に合わせたいから

  2. 2

    佐藤二朗の地上波ドラマはしばらく厳しいが…橋本愛の事態はもっと深刻

  3. 3

    福山雅治も結婚後は苦戦…亀梨和也も正念場を迎えている

  4. 4

    大谷翔平のホワイトハウス訪問に思わぬ落とし穴…トランプ大統領の「余計な援護射撃」に要注意

  5. 5

    48年ぶり映画出演の由美かおるさんが語る 人生が変わった瞬間「11PM」「水戸黄門」エピソード

  1. 6

    日本ハム伊藤大海が受けた甚大被害 WBC「本当の戦犯」は侍ジャパンのベンチだった!

  2. 7

    佐藤二朗vs橋本愛ハラスメント騒動は「文春嫌い」「フジテレビ嫌い」「共産党嫌い」が絡み合うカオスに

  3. 8

    国会嫌い高市首相「2つの疑惑」からの逃げ切りも画策…逆ギレから3週間、「秘書陳述書」提出の動きなし

  4. 9

    要潤、玉山鉄二、速水もこみち…40代イケオジ俳優3人の「人生いろいろ」

  5. 10

    西武は渋谷店閉店、池袋本店はヨドバシカメラに…海外ブランドに振り回される国内百貨店の実態