著者のコラム一覧
増田俊也小説家

1965年、愛知県生まれ。小説家。北海道大学中退。中日新聞社時代の2006年「シャトゥーン ヒグマの森」でこのミステリーがすごい!大賞優秀賞を受賞してデビュー。12年「木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか」で大宅壮一賞と新潮ドキュメント賞をダブル受賞。3月に上梓した「警察官の心臓」(講談社)が発売中。現在、拓殖大学客員教授。

「時代に挑んだ男」加納典明(56)就寝前の瞑想「毎夜、“裸”の思考で、もうひとりの自分を見る」

公開日: 更新日:

 作家・増田俊也氏による新連載スタート。各界レジェンドの生涯を聞きながら一代記を紡ぐ口述クロニクル。第1弾は写真家の加納典明氏です。

  ◇  ◇  ◇ 

増田「毎夜、寝る前の、禅のような1時間の瞑想。それは典明さんにとって大切な時間なんですね」

加納「その時間から何かが生まれることもあれば、生まれないこともある。でも、その時間に考えていることは本当に“裸”の思考だと思う。誰かに言われたからとか、何かを見たからとか、そういう影響を受けて考えるのではなく、完全に自由になっている瞬間。半分、夢うつつで考えているかもしれないけど、あの時間はもうひとりの自分を見るようなものだと思う」

増田「やはり禅ですね。それは」

加納「客観的に見ればそうかもしれない」

増田「宗教についてはどう考えますか」

加納「俺は宗教には全く興味がない。知識としては知っているけどね。ああやって一生坊主として生きるのも、ある意味で職業だろうし、税金もかからないかもしれないし。でも、本当に自分に嘘をつかずに生きているのか? 一度、とことん話してみたいね、一番偉い坊さんと」

増田「典明さんがそういう偉いお坊さんを取材して回ったら面白いかもしれませんね。ペンとカメラを持って。日本中の高僧の写真を撮る」

加納「それはやってみたいな。83歳の俺だからこそ撮れる写真があると思う。何が写るのか興味深い。少し話をすれば、そこから得られるものもあるしね。話をしながら撮影すれば、俺も学ぶことがあるかもしれない。でも、それは“教え、教わる”ということじゃない。俺は言葉とか知識、判断力よりも、その人の持つ感性を見ているんだ。俺にとって感性はすごく大事なもの」

増田「風景系の写真集はあまり出されていないですか?」

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