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スージー鈴木音楽評論家

1966年、大阪府東大阪市生まれ。早大政治経済学部卒業後、博報堂に入社。在職中から音楽評論家として活動し、10冊超の著作を発表。2021年、55歳になったのを機に同社を早期退職。主な著書に「中森明菜の音楽1982-1991」「〈きゅんメロ〉の法則」「サブカルサラリーマンになろう」「大人のブルーハーツ」など。半自伝的小説「弱い者らが夕暮れて、さらに弱い者たたきよる」も話題に。日刊ゲンダイの好評連載をまとめた最新刊「沢田研二の音楽を聴く1980-1985」(日刊現代/講談社)が絶賛発売中。最新刊「日本ポップス史 1966-2023: あの音楽家の何がすごかったのか」が11月10日に発売。ラジオDJとしても活躍。

『オール・マイ・ラヴィング』日本人好みの超ド級のポップかつ胸キュンソング

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『オール・マイ・ラヴィング』

 アルバム『ウィズ・ザ・ビートルズ』の発売の前に『フロム・ミー・トゥ・ユー』『シー・ラヴズ・ユー』(ともに1963年)という強力シングルが発売されたこともあったからか、『ウィズ~』からはイギリス、アメリカともにシングルがカットされなかった。

 それゆえアルバムとして、やや地味な印象となるのだが、もしこのアルバムからシングルを切るとすれば、選ばれるのは真っ先にこの曲だろう(事実、日本ではシングルカットされた)。

 ジョンが多くの曲でリードボーカルを取る『ウィズ~』の中、ポールは、この曲1曲で、ジョンとタイマンを張っているような感じがする。

 キュートで人懐っこい超ド級のポップソング。後のポール作品で言えば、例えば『ハロー・グッドバイ』(67年)の源流とでもいうべきだろう。

 コード進行も日本人好み。何ともJポップっぽいのだ。例えばキーがEなのに「F♯m」から入るところなんて、昨今のJポップの常道。

 さらにサビ(再生時間「0:50」から)の半音ずつ下がっていくコード進行(コーラスのいちばん下のジョージが歌うパートに注目)なんてまさにJポップ(専門用語で「クリシェ」といいます)。



 さらには歌詞もまた胸キュンなラブソング。大昔に買ったCDの歌詞カード(対訳:内田久美子)では「オール・マイ・ラヴィング」が「ありったけの愛」と訳されている。うまい。

 演奏では、ジョンによる「♪チャカチャ・チャカチャ」という三連符の速いコードカッティングが名演としてよく語られる(試聴リンク、左チャンネルに注目)。確かに、これ、簡単そうでやってみるとなかなか難しい。ピックを持つ右手首の柔軟性が大事。リウマチ予防のいい運動になりそう。

 ただ、それよりもジョージの軽やかなギターソロ(試聴リンク「1:01」から)を、もっとほめてやれよとも思う。うーむ、初期ビートルズを語るということは、ジョージを温かい目で応援したくなるということだ。

 ボーカルで注目は「1:14」からのポールの1人ハモリ。ここは、上も下もポールの声。初心者向け「声に出してハモりたいビートルズメロディー」の代表といっていい。

 ここからビートルズは、声や楽器を何重にも重ねて重ねて重ねてまいります。彼らの音楽性の進化は、録音技術の進化と軌を一にしている。そのあたりを今後、見ていきたいと思う。

 それにしても日本人好みの曲だ。誰かカバーすればいいのに。タイトルは「ありったけの愛」で。

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【連載】スージー鈴木のゼロからぜんぶ聴くビートルズ

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