萩本欽一(16)「つらいはつらいの向こうにある」棋士・米長邦雄さんが私にしてくれた粋な話
増田「つらいことはつらいのの向こうにある」
萩本「ええ。みんながきついな、ああ、もうダメだなって言ってるのは、実まだそこにはつらいも苦しいもない。つらいのその向こうにあるのがつらいんだって。よくわかんない話だねって言ったら、将棋の坂田三𠮷*さんの話をしてくれて」
増田「村田英雄のヒット曲『王将』のモデルの」
※坂田三吉(さかたさんきち):明治から昭和初期にかけて活躍した伝説的な将棋指し。「王将」のモデルとしても有名。大阪・新世界や通天閣界隈の貧しい長屋文化のなかから現れた人物で、学歴もなく、職人あがりに近い存在だった。しかし将棋だけは異様に強かった。風貌も独特でボサボサの髪の着流し。性格は武骨、怒鳴る、盤を叩くという、“浪花の怪物”のような存在として語られた。
萩本「そうそう。橋の上で坂田三吉さんが奥さんから『あんたもう将棋やめてくれ』と、『もうきついよ私は』って言われた。坂田さんは『やめない』って。『おまえさんがそう言うなら私は死ぬよ』『ほんと死んでもいいんですか』と言われたんだそうです。それでも坂田さんは『将棋はやるよ』って言うもんだから、そしたら、奥さんが橋の欄干に飛び乗って『ここから飛び込むよ』『それでもやめてくれないのか』って言ったら、なお『やめない』っつった。結局、奥さんは『あんたにはかなわない』って言ったっていう話でした」


















