「すばる 2026年7月号 特集:SNSが好きで嫌いで」集英社(選者:稲垣えみ子)

公開日: 更新日:

この誰も止められない地獄と付き合う覚悟を決めた

「すばる 2026年7月号 特集:SNSが好きで嫌いで」集英社

 SNSとは距離を置いていたのに、しばらく前からインスタを始めた。昨今のフリーランスは自ら集客する力がなければ仕事が回ってこない圧に屈したのである。で、今さらその沼っぷりを痛感。人目を気にした投稿を繰り返すうち、現実世界が「いいね」をもらう原材料になり下がりかねないとわかっているのにやめられない。そしてスマホ画面にはそんな底なしの承認欲求があふれ、見ているだけで心がざわつくのに、なぜかダークな投稿ほど見てしまう。

 かくして現代を生きる我らのハートはかつてない攻撃や皮肉や憎しみに占拠され、時間とエネルギーを奪われアドレナリンを無駄に分泌させられて、一度しかない人生が吸い尽くされ……というようなことは既に誰かが指摘しているわけだが、しかしそのヤバさの核心は案外捉えどころがなく、なんか嫌だよねと皆が思いながらも事態は一向に「収まる」気配もなく、その無敵な得体の知れなさにうんざりしていたところで、この特集を読んだ。

 今、初めてSNSってものが「見えた」気がしている。

 小説、論考、エッセーなど、フィクション、ノンフィクションを取り混ぜた多彩な形式で展開される文芸誌の特集にこれほどふさわしいテーマはないのではないか。その多彩で自由な作品の中で、SNSとの付き合い方も親近感も違和感も筆者によってあまりにも違いすぎるということがどうしようもなく浮き彫りになり、それこそがSNSのスゴイところであり恐ろしいところなのだと痛感せずにはいられない。つまりは、そもそもSNSって何なのか、SNSに何を求め、何を見るのかっていう大前提が100人いれば100通りなのである。だからSNSについてどう語り合っても話は噛み合うようで噛み合わず、そこにどれほど深刻な問題があっても連帯も抵抗もできないのである。おそらく、我らはこの誰も止められない地獄と地球滅亡の日まで付き合っていくしかない。私はこの特集を読みその覚悟を決めたところである。

 個人的にとりわけ面白かったのは村田沙耶香氏の小説「喪失」(登場する用語がことごとくわからず調べながら読み、全ての用語に震撼)、そしてなんといってもSNSどころかスマホもパソコンも持たぬ小説家田中慎弥氏のインタビューである。私は究極ここにしか出口はないと思っているので興味津々で読んだが想像以上のハードボイルドな人生におののいた。しかし現実にその人がいるという事実は私を強く励ました。無論その他の全ての作品が実に興味深い。現代の地獄を知る必読の特集である。 ★★★

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    サンド伊達レギュラー14本…40~50代の芸人に仕事集中、「リスク分散」しなかった各局のダメージ度

  2. 2

    「24時間マラソン」満身創痍の星野真里が完走も…募金額46%減&ゴール直前の乱入騒動に非難の嵐

  3. 3

    24時間マラソン完走後にSNSで“陰謀論”が拡散 星野真里に上がった「車移動説」のお粗末

  4. 4

    巨人が“ゾンビたばこ騒動”の広島から狙う「投打のFA2選手」 6年ぶりダブル獲りに現実味

  5. 5

    巨人・阿部前監督「9月復帰」情報の真偽…読売グループ内には同情論も、懸案は…?

  1. 6

    「24時間テレビ」出演者ギャラ、視聴率目当ての偽善、CM荒稼ぎ…毎年非難ゴウゴウの“内実”に迫る

  2. 7

    山本美月は九州の女子校で偏差値トップ「筑紫女学園」から明大農学部へ 祖父も生物教師の“リケジョ”

  3. 8

    北島三郎(4)「毎日が目標です。後ろへは戻れない」 地元・八王子のイベントで生涯現役宣言

  4. 9

    沖縄自民に“下地ショック”の余波…注目の県知事選で古謝陣営が「進次郎の奇跡」待望も不発は必至

  5. 10

    バナナマン日村が簡単に復帰できそうにない「もう1つの理由」…レギュラー11本抱える人気者のジレンマ