著者のコラム一覧
井上理津子ノンフィクションライター

1955年、奈良県生まれ。「さいごの色街 飛田」「葬送の仕事師たち」といった性や死がテーマのノンフィクションのほか、日刊ゲンダイ連載から「すごい古書店 変な図書館」も。近著に「絶滅危惧個人商店」「師弟百景」。

よみた屋(吉祥寺)「町の新刊書店ではあまり見つけられないちょっと変わった本」が古本で約6万冊

公開日: 更新日:

 店主・澄田喜広さんの新刊「古本屋という仕事」を読んだ。開業の具体的な指南のほか、70年代からの大量出版の時代を受けて90年代にブックオフが誕生したように、出版動向が約20年を経て古書業界に反映されることなど膝を打つことが満載だ。さすがベテラン。伺いたくなって、吉祥寺へ。

 井の頭通り沿いの路面店だ。1992年に西荻窪で創業し、97年からここ。約40坪の店内に約6万冊がひしめいている。

「良書だけを集めてはならない、きれいに並べてはならない、おしゃれであってはならない──と、“普通の店”を目指してやってきました」と澄田さん。置いているのは、「町の新刊書店ではあまり見つけられない、ちょっと変わった本ですね」と続き、面白そうだ。

 入り口近くの「新入荷」棚で足を止め、田中小実昌「オチョロ船の港」も高橋純子「仕方ない帝国」もあることを胸に刻む。買い取り後、データベースに入れる前に並べる場所だそうで、安めの値付けだ。

約5メートルにわたって続く思想書の棚が壮観

 その近くに、おなじみの絵本も廉価でずらり。だけども、少し離れた場所にもまた絵本群。前者が「子ども向け」、後者は「絵本好きの大人向け」だそうで、「例えばこれ」と後者から取り出してくれたのが、1964年刊の「NHKひょっこりひょうたん島」。1万1000円売り。2分割配置、なるほど──である。

「でも、分割は絵本だけ。本の“格”に関係なく、内容で分けています」

 妻で店長の佐藤佳奈さんに、「ファッション、料理、旅、登山、美術、仏教……」と案内してもらってたどり着いた店の最奥が、澄田さんいわく「ウチの真骨頂」。約5メートルにわたって続く思想書の棚が、壮観だ。哲学史、合理論・経験論、カント/ヘーゲル、解釈学/ハイデガー、現象学などのインデックスあり。確たる本が待ち構えていた。澄田さんが愛おしいものを見る目で、フーコーの「言葉と物」を手にしつつ、「実は、ここから放射状にさまざまな関係分野を配置しているんですね」。

 近年よく売れるのは? と聞くと、「数学」と即答が。「物理や化学と違い、数学は古くさくならないから」って、合点がいく。「あと、神秘思想、占い、精神世界、反精神医学」とのことで、こと反精神医学について、2009年刊の「精神病院を捨てたイタリア 捨てない日本」を佐藤さんが紹介してくれた。

◆武蔵野市吉祥寺南町2-6-10/JR中央線・総武線、京王井の頭線吉祥寺駅南口から徒歩2分/℡0422-43-6550/午前10時~午後7時、無休(年末年始のみ休み)

ウチの推し本

「ユマニチュード入門」本田美和子、ロゼット・マレスコッティ、イヴ・ジネスト著

「ウチは『おすすめ』をしない店なので、困ったなあ(笑)。では、今、注目されている一冊として、紹介します。上映中の『急に具合が悪くなる』、ご覧になりましたか? 日本の文化人類学者と哲学者の往復書簡が原作で、フランスが舞台の映画ですが、認知症のお年寄りに“ユマニチュード”のケア技法がなされているシーンが出てきます。直訳すると『人間らしさを取り戻す』の意味。これは、2014年に出た入門書です」

(医学書院古本売値 550円)

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