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五木寛之 流されゆく日々

1932年福岡県生まれ。早稲田大学露文科中退。66年「さらばモスクワ愚連隊」で第6回小説現代新人賞、67年「蒼ざめた馬を見よ」で第56回直木賞。76年「青春の門 筑豊篇」ほかで第10回吉川英治文学賞を受賞。2002年には第50回菊池寛賞を受賞。NHKラジオ深夜便「歌の旅人」、BSフジ「五木寛之『風のcafe』」放送中。日刊ゲンダイ本紙連載「流されゆく日々」はギネス記録を更新中で、16年9月5日に連載10000回を迎えた。著書に「風の王国」「大河の一滴」「他力」ほか、「親鸞」三部作など多数。

連載10099回 アメリカ・アズ・No1 <1>

 アメリカは戦後少年である私たちにとって、はるかな憧れの国だった。
 それはモノの王国、技術の帝国としてのアメリカではない。野球に代表される巨大なスポーツビジネスの世界でもない。
 カルチュアとしてのアメリカ的なもの、それが私たちを限りなく惹きつけたのである。
 小説もそうだった。ホーソンやマーク・トゥエーンなどはもとより、ことに現代小説の世界はそうだった。フォークナーやヘンリー・ミラー、スタインベックやジェームズ・ケイン、ヘミングウェイはもとより、チャンドラー、ハメットからサローヤンにいたるまで、アメリカの小説は戦後少年にとっては目のくらむような新世界だった。
 しかし、なんといってもアメリカを象徴するのは、音楽である。ジャズやブルースはいうまでもなく、さまざまなジャンルの音楽が、私たちを心の底まで魅了したのだ。
 その中でも、『サマー・タイム』と『ラプソディー・イン・ブルー』、『スワニー』などのメロディーは忘れがたいものの一つである。『ポギーとベス』の中でうたわれる『サマー・タイム』こそ、私にとって、もう一つのアメリカであり、アメリカの最良の部分であるように感じられたのである。
 人によって意見はちがうだろう。しかし、私には『サマー・タイム』が最良のアメリカだった。『ラプソディー・イン・ブルー』こそがアメリカの価値のように思われたのだ。
 それらの音楽を創りだしたのは、いうまでもなくガーシュインである。ジョージ・ガーシュインが存在することでアメリカはモノの帝国、ドルの帝国であるだけではなく、カルチュアのトップ・ランナーであると考えられていたのだ。
 ガーシュインは、アメリカそのものである。アメリカという国の文化を代表するのはガーシュインの音楽だ。
 私たちは一方で基地反対闘争を叫びながら、一方で映画『巴里のアメリカ人』に拍手していた。
 ガーシュインこそが、『アメリカ・アズ・ナンバーワン』のシンボルだったといってもいい。アメリカなるもの、その最良の部分の一つとしてガーシュインがいるのである。
 ジョージ・ガーシュインは、移民の子である。ブルックリンに生まれたが、れっきとしたロシア移民の末裔である。ロシア人の血が流れているガーシュインが、アメリカ的なるものの最良の世界を創りだした。そこにこそ、世界のNo1、アメリカの意味がある。
(この項つづく)
──協力・文芸企画

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