<1>日本では裕福な家庭環境に育つも、辛辣ないじめが常に続いた

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 東京五輪開催に伴い、各国首脳や閣僚らと“五輪外交”を展開した菅義偉首相。だが、訪日を見送った韓国の文在寅大統領との会談は実現しなかった。

 日韓関係は、従軍慰安婦問題や徴用工訴訟、竹島の領土問題など、過去の遺恨がさまざまな局面でクローズアップされ、ときにはそれが政治以外の場面に波及することも。大手化粧品会社会長による嫌韓発言や、東京五輪の韓国代表選手団の食事問題など、「反日・反韓」といった憎悪が双方で起こりやすい状況が続いている。

 現在、日本には40万人以上の在日韓国人が暮らしているといわれている。彼らは両国をどのように見つめ、どういう暮らしをしてきたのかーー。

 ◇  ◇  ◇

「韓国では支持率が下がると反日政策が繰り返され、国民も反日感情一色のように思われがちですが、若者を中心に親日家も少なくありません。最近では、音楽グループ『BTS(防弾少年団)』の世界的な活躍で、韓国カルチャーに刺激を受けている日本の若者がたくさんいるように、両国とも悪感情を抱いているのは、主に戦時中の出来事を引きずる年配者がほとんどです。年代の隔たりはそのうちなくなっていくのでしょうが、日韓の関係修復には、まだ高いハードルがたくさんあるのかもしれませんね」

 こうは話すのは、在日韓国人2世の山中剛さん(仮名・57歳)。1963年に東京都江東区で韓国人の両親から生まれ、韓国籍のまま日本の学校に通い日本人として教育を受けてきた。

■裕福な在日家庭で育つ

 山中さんは、少年時代に差別で苦しんだことを微塵も感じさせない明るさを漂わせている。眉目秀麗ではないが清潔感があり、人を心地よくさせる雰囲気とトークで、初対面でもすぐに打ち解ける天賦の才が備わっているようだ。そのため、青年期だけでなく還暦間近の今も、女性に苦労したことがないというのもうなずける。

 山中さんの父親は戦後まもなく、韓国から日本に密航。在日の同胞がヒロポンの密造や鉄くず集めなどで生計を立てるなか、貸金業で財を成した。当時は今のような消費者金融が一般的でない時代で、「無尽」と呼ばれる相互扶助の金融システムも実在し、「年利100%」がまかり通っていた。父親は、日本での生活基盤が整ったところで韓国から母親を呼び、山中さんが生まれた。

 山中さんが物心ついた頃には、父親はパチンコ屋と焼肉店を経営。戦災で国土が荒廃している状況下で、歴史的経緯を鑑みた特権の1つである「特別永住者証明書」も問題なく取得できたそうだ。裕福な家庭環境で育ったが、常に差別に悩まされたという。

「恥ずかしながら、ハングルは話すことも書くこともできません」

「ニンニクくせーな」

「隠れ在日」という言葉を耳にしたことがあるだろうか。差別を避けるために、通名を使い自分のルーツを隠して生きている者は少なくない。在日韓国人への差別は“在日特権”への妬みもあるが、山中さんの場合、マイノリティーへの攻撃が主だった。山中さん一家は商売によって在日韓国人であることが周知され、辛辣ないじめが続いた。

「グループで待ち伏せして殴る蹴るの暴行は日常茶飯事でした。あるときリーダー格に狙いを定めて、徹底的にやり返せばいいことに気づき、その方法を試したところ功を奏し暴行はだいぶ減りましたね」

 だが、大人からの差別も容赦なかったという。「ニンニクくせーな、山中がいるんだろう」と、教師がわざと周りに聞こえるように大声で話すのはさすがに堪えたと。

 山中さんの普段の食事は、父親が経営する焼肉店で日本人スタッフが作る賄い飯だったが、時間があると母親が台所に立ち、祖国の料理を作ってくれた。

「母のご飯は、唐辛子やコチュジャンを使った料理がいっぱい並ぶので、テーブルが赤く染まるのです。朝食に参鶏湯が登場することが多く、羽をむしったひな鳥が軒先に吊るされていたのをよく見ました。いずれにせよ、ニンニクをたくさん使うので、母の作る朝食を食べた日は、教室で『ニンニクくせー』とケチをつけられ、そこに先生も便乗していたのでしょう」

 山中さんが小学生だった1970年代は、現在と比べると、差別されている児童への配慮に欠くような教師が少なくなく、モラルが問われることも少なかったという。そのため、「在日というだけで周囲の人に迷惑をかけているのだろうか」、「なぜ不当な扱いを受けなければならないのか」と、考え込むことが多かったと話す。

 成長していくにつれ、「在日本大韓民国青年会」などの同胞の集まりに参加するようになると、参加者名簿から「2組のアイツも、『隠れ在日』だったのか」という場面に出くわすようになり、複雑な気持ちになることがさらに増えていったという。同時に、ルーツを隠して息を潜めることで、差別から身を守れることに気づかされたという。(つづく)

(取材・文=大山ユミ/ライター)

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