「温泉付きSA、暮らしていける説」を検証すると、そこは「極楽浄土」だった

公開日: 更新日:

こんなところで“整える”とは

 車を飛び出しトイレへ急行、小便器に穴が開くのではという勢いで出し切って、いざ温泉へ。

 脱衣所で服を脱ぎ捨て、クルミのように縮み上がった自分の分身をさすり、「もう大丈夫だよ」といたわってやる。いざ浴場に入って驚いた。サウナと水風呂まで備わっているではないか。こんな場所で“ととのえる”とは。湯船に漬かると、震えるような寒さの苦しみさえいとおしくなる。こここそが極楽浄土だ。

 心身ともに復活した後、コンビニでカイロを購入し、フードコートで熱々のラーメンをすする。巣に戻り、カイロを両足の裏、腰、背中、首に貼ると、温泉効果も相まってぐっすり眠ることができた。

 翌日、昼間は車内からリモートワークで仕事をこなし、お腹が減ればフードコートへ向かう。各店舗で特産グルメが提供されているのもうれしい。バラエティー豊かで飽きることはない。

 夜はスマホを眺めながら時間を過ごし、頃合いを見てまた温泉へ。体を温めた後、全身にカイロを貼り付けて目をつむる。そのまま朝を迎え、再び仕事に取りかかる。

 俗世を忘れ、せわしなく行き交う人々を見送りながら、目的地も急ぐ必要もない自分に気づく。そこには不思議な優越感があった。いつしか通りすぎる人々の安全を祈る余裕さえ生まれていた。

 結局3泊を過ごしたが、時間が許すならもっといたかった。慣れればこの上ない快適空間だった。

「ずいぶん長い時間、高速にいたけど、何かありました?」

 料金所で尋ねられたため、

「SAで休んでいました」

 正直に答えると、とがめられることはなかった。胸をなでおろして下界へハンドルを切った。

最新のライフ記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    新生阿部巨人は早くも道険し…「疑問残る」コーチ人事にOBが痛烈批判

  2. 2

    阿部巨人V逸の責任を取るのは二岡ヘッドだけか…杉内投手チーフコーチの手腕にも疑問の声

  3. 3

    阪神「次の二軍監督」候補に挙がる2人の大物OB…人選の大前提は“藤川野球”にマッチすること

  4. 4

    阪神・大山を“逆シリーズ男”にしたソフトバンクの秘策…開幕前から丸裸、ようやく初安打・初打点

  5. 5

    巨人桑田二軍監督の“排除”に「原前監督が動いた説」浮上…事実上のクビは必然だった

  1. 6

    創価学会OB長井秀和氏が明かす芸能人チーム「芸術部」の正体…政界、芸能界で蠢く売れっ子たち

  2. 7

    阪神の日本シリーズ敗退は藤川監督の“自滅”だった…自軍にまで「情報隠し」で選手負担激増の本末転倒

  3. 8

    大谷翔平の来春WBC「二刀流封印」に現実味…ドジャース首脳陣が危機感募らすワールドシリーズの深刻疲労

  4. 9

    大死闘のワールドシリーズにかすむ日本シリーズ「見る気しない」の声続出…日米頂上決戦めぐる彼我の差

  5. 10

    ソフトB柳田悠岐が明かす阪神・佐藤輝明の“最大の武器”…「自分より全然上ですよ」