目黒「とんき」でビールを飲み、とんかつを揚げる音を聞きながら待つ20分間の至福
昭和の男子にとってごちそうといえば、とんかつにとどめを刺す。異論のあるモノは名乗り出ろ! ってそんなに入れ込むことはないけれど、間違いなくとんかつはごちそうの横綱だった。
商店街の肉屋で揚げている薄っぺらのとんかつでも当時のはな垂れ小僧たちには垂涎の的。母親が中華鍋で揚げたとんかつは油が少ないのでムラがあり、きつね色とはいえなかったが、それでもうれしかった。
キャベツの千切りに揚げ油を垂らし、そこに中濃ソースをぶっかける。これがまたうまい。いくらでもご飯が食えてしまう。だからとんかつは家で食べるごちそうだった。
そんなある日、「ほっぺたが吹っ飛ぶとんかつ食いに行くか」と、父親に誘われた。それが今回ご紹介する「とんき」である。
昭和14年創業。この地に移って約60年。誤解を恐れずにいうと、その当時、とんかつ屋に行けるのは働いている大人の男だけだった。昔の映画でもとんかつでビールを飲んでいるのは一人前の男ばかり。子供が行くような店ではない。50年ぶりの還暦男なら、とんきのとんかつでビールを飲む資格はあるかな……。
関東に台風が初上陸した日、午後4時の開店を目指し目黒へ。雨の中、すでに5、6人が並んでいる。4時きっかりに3代目店主の吉原出日さんが店頭で出迎えてくれた。その人懐っこい笑顔が50年ぶりで気持ちが高ぶるアタシをホッとさせてくれる。中に入り、いきなり記憶が蘇った。
そうだ! この白くて長いカウンターと丸見えの厨房、下に敷いてある簀の子。昔と変わってない!
アタシはロースかつ定食(2500円)と瓶ビール(700円)。ビールにはピーナツが付くのがうれしい。アタシはカウンター手前の角に陣取る。斜め先の正面には口開けトップの先輩がすでにビールを傾けている。
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