地酒が飲めるジャズ喫茶 三田「亭久五」の思い出
初めて、地酒を飲んだのが大学生の頃だから45年ほど前になる。
西荻窪に地酒酒場があり、そこで初めて口にしたのが三千盛。何度か通ったのちに飲ませてもらったのが、出羽桜の純米大吟醸。若造のアタシはこの酒に腰を抜かした。うまさに驚愕したのはもちろん、文字通り飲み過ぎで足腰立たなくなったのである。この酒との出会いがアタシの日本酒のイメージを根底から覆すことになった。
当時はまだ珍しい地酒を扱っている酒屋も少なく、居酒屋にも置いていなかった。再会したのはその4、5年後、今回ご紹介する三田にある「亭久五」(テイクファイブ)というジャズ酒場だった。
たまたま、その店を手伝っていた友人に誘われた。ジャズ喫茶で地酒を飲ませる店。それだけで店主が変人だとわかる(失礼!)。アタシの好みど真ん中だ。慶応仲通りに飲み屋がまだ少なかった頃、その隙間から入り組んだ路地に入ってしばらく行ったところに、まさにぽつんと一軒、そんな店だった。
1977年、ジャズ喫茶として創業。間もなく地酒を出すようになる。が、当時はまだ地酒に対する認識が低かったせいか、いつも暇にしていた気がする。寡黙な杉山店主と明るく人当たりのいい可愛いマダム2人で切り盛りしていた。
この店で初めてすすめられたのが天狗舞。「こりゃ、ヤバイゼ」と、思わず唸った。西荻で地酒修業し、酒知識には少なからず自信があった。そのアタシの鼻がポキンと折られた。弟子入りの杯が出羽桜酒造の雪漫々純米大吟醸だった。この味を求めて幾星霜。感激の再会を果たしたのである。
あるとき、半可通の客が冷やしてある大吟醸を熱燗で出せと言ってきた。すると店主は「○○を燗して出しとけ」と、有名な河童がシンボルの酒を燗して出していたそうだ。
通い始めた当初、酒の肴は喫茶店のスナックのようなものだった。が、突然、うまい中華を出すようになる。中でもニラ玉はアタシの人生のベストワンといってもいい。常連だった大手ホテルの中華のシェフから手ほどきを受けたらしい。ジャズが流れる店で中華を肴に日本酒を飲む。まさにアドリブ精神満載だ。デイブ・ブルーベックの端正で聴きやすい曲を店名にしてはいるが、気持ちはバリバリのフリージャズ、オーネット・コールマンだ。その後、大繁盛して毎晩混むようになり足が遠のいてしまった。
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