自民党稲田朋美氏 未婚ひとり親家庭の支援拡大から変化を

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「伝統的家族」にとらわれず未婚ひとり親も支援

 保守を標榜し、家庭のあり方を憲法に書き込もうとするほど「伝統的家族観」にこだわる自民党に変化の機運が生まれている。昨年末の税制改正で未婚のひとり親家庭にも税制優遇が拡大された。中心になって動いたのが、党内きってのタカ派と評される幹事長代行だ。一体なぜ? 原動力は? 経緯を聞いた。

 ◇  ◇  ◇

 ――2020年度税制改正大綱に未婚ひとり親を支援する制度が盛り込まれました。配偶者と離婚・死別した人の所得税を軽減する「寡婦(夫)控除」の対象が、年間所得500万円(年収678万円)以下の未婚ひとり親世帯に拡大。通常国会に関連法改正案が提出されます。なぜこの問題に着目したのですか。

 19年度の税制改正で、寡婦控除の対象に未婚ひとり親を含める案が自民党の反対で見送りになりました。その理由が「伝統的家族を壊しかねないから」という報道を見て、すごく驚いたんですね。未婚なのか、離婚なのか、死別なのか。ひとり親家庭にはいろいろな背景があるのに、ひとりで子育てをする人を支援する税制が入り口で差別するのはおかしいなと感じたのがきっかけです。

 ――共同代表を務める党内議連の「女性議員飛躍の会」などで党税制調査会に働きかけたそうですね。

 メンバーの木村弥生衆院議員が長くこの問題に取り組んでおられて、私のところに「しんぐるまざあず・ふぉーらむ」(NPO法人)の赤石千衣子理事長を連れてこられた。未婚ひとり親に対する差別税制問題について要請されたので、「全く同感で実現すべき」と申し上げました。税制の季節入りした昨年11月に飛躍の会有志で甘利明税調会長に申し入れをすると、「そういった方向には賛成だ」と前向きな回答をいただき、うれしかったですね。

 ――しかし、税調の議論は紛糾しました。

 平場では誰も反対を唱えず、男性ではただひとり、田村憲久元厚労大臣が同じ意見を言ってくださった。ところが、自民党案は未婚ひとり親も寡婦控除の対象にするものの、児童扶養手当の支給対象となる年収365万円(年間所得230万円)以下の世帯に制限するというものでした。

 ――甘利税調会長は当時、「未婚のひとり親を確認する手段が児童扶養手当だ」とこだわっていた。ですが、離婚・死別の人が年間所得500万円までなのに、未婚の対象は狭められたままになってしまいます。

 自民党案では不十分のみならず、新たな差別を生むことになるので、私たちは反対しました。4月から安倍政権の目玉政策である高等教育無償化が始まりますが、寡婦控除の有無で授業料減免や給付型奨学金で差がつき、同じ年収250万円の母子世帯でも約54万円の差が出てしまう。にもかかわらず、「自民党にはサイレントマジョリティーの応援団がいる」「伝統的家族を守りたいという声が大きな流れとしてある」という言葉を耳にして、私たちはショックと同時に怒りを感じました。男性議員にも声を上げてもらわなければとなって、1日で130人以上の賛同者を集め、税調に「賛同国会議員名簿」を提出し、実現にこぎつけました。

 ――党所属国会議員の3分の1を超える賛同を集めたわけですか。

 決め手になったのは、未婚ひとり親に控除を広げると事実婚を奨励するとか、法律婚を破壊するといったバカげた理由付けです。誰が好き好んで未婚で子供を産みますか。子供は非嫡出子になりますし、法律婚をしなければ相続権はないし、配偶者控除も適用されない。寡婦控除を得たいがために事実婚が増えるというのは全くデタラメです。かたや、現行制度では離婚したひとり親は事実婚でも寡婦控除が適用される。偽装離婚を後押しするかのような制度になっているじゃないですか。本当に怒りしかないですね。

 ――党内では未婚ひとり親に対し、「ふしだらだ」「ライフスタイルでやっている」という意見も根強くあります。

 伝統的家族を大切にするのはいいことですし、私も反対はしないんです。ただ、それを強調するあまりに、枠からはみ出た人たちを排除することにならないか。伝統的家族という言葉を差別の助長に使うのは絶対に良くない。そもそも、この問題は伝統的家族かどうかを議論する以前に、法の下の平等の問題であり、人権の問題なんです。そのあたりがゴチャゴチャになってしまっています。

 ――今回の行動に支持が広がる一方、稲田さんに対して「ぶれた」「左翼だ」と批判する声も聞こえてきます。

 赤石理事長にも「自民党の国会議員に未婚ひとり親を応援したいと言ってもらえるとは思わなかった。特に、稲田さんのような保守的な政治家が支援してくれるのは驚きです」と言われて私自身も驚きました。そんなふうに見られてたんかなあって。政調会長時代にLGBTについて議論する「性的指向・性自認に関する特命委員会」を立ち上げた時も、非常に批判を浴びたんですよね。当事者の方が党本部に要請に見えた時に「自分たちも伝統的な家族をつくりたいんです」と言っておられた。伝統的家族を守ることがLGBTカップルを認めないことではないんだと、その言葉で気づかされました。

本来の保守は他人の生き方を認める

 ――世間が抱く「自民党的な保守」の印象とはギャップがあります。

 自民党はいい意味でも悪い意味でも伝統的な保守ですよね。その上に新しいものを創造することが、これからの保守の姿だと思います。多様性のある社会は保守だからこそ実現できる。本来の保守は、自分は間違うかもしれないと謙虚に考え、他人の生き方を認めることだと思うんです。自民党をそうした方向に変えていくことは、日本を良くすることにつながると今回のことでも確信しました。

 ――ツイッターで〈マスコミから総理から税調会長に進言してもらったのかとか総理の意向かときかれました。心外です。私達は偉い男性を頼って何かを成し遂げようと思ったことはありません〉とつぶやいていました。

 そうなんですよね。「税は感情じゃない」「女性議員がわーわー言っている」という言われ方もしました。成果が出ると「総理から言ってもらったのか」と言われる。そういうふうに見られがちなのも違うんじゃないか、と。女性の国会議員が少ないことが根底にあるんでしょうね。国会に女性が増えないと、正しいことが進められず、民主主義が歪む側面があるのかもしれないと初めて思いました。年末年始に地元に帰ったのですが、福井も保守的で、自民党が強い地域なんです。政治的な集会で私の話を聞いている人はほぼ男性。女性は賄いをしているんですね。集会の半分くらいを女性が占め、男性もエプロンをかけて豚汁を作ったりする。そういうふうに風景を変えたいと思うんです。(議会の議席や選挙での候補者の一定数を女性に割り当てる)クオータ制には反対だったのですが、候補者の3分の1を女性にするなど国会へのアクセスを議論する必要がありますね。女性活躍にしても、現状の固定的な雇用制度では難しい。雇用改革に切り込み、日本の生産性を引き上げ、財政再建にもつなげていく。日本の風景を変えるキーワードが女性活躍なんだと考えるようになりました。

■防衛相辞任でペチャンコになって周りが見えた

 ――自民党の風景を変えることが日本の風景を変えることにもなるんですね。

 これまでなぜ気づけなかったかというと、私自身、いわゆる男性社会でキャリアアップしてきた。でも、防衛大臣の時にペシャンコになりました。(自衛隊の日報隠蔽問題で)大臣を辞任したことで、これまでがあまりにも順調で、当然のようにステップアップしてきたけれど、普通のことではなかったのかもしれないとの思いに至りました。快く思わない人もたくさんいたと思います。挫折したことが考えるチャンスになり、周りが見えるようになったというか、いろんな人の痛みを自分事として感じられるようになりましたね。
 
(聞き手=坂本千晶/日刊ゲンダイ)

*インタビューは【動画】でもご覧いただけます。

▽稲田朋美(いなだ・ともみ)1959年、福井県生まれ。早大法学部卒業後、弁護士として活動。05年の衆院選(福井1区)で初当選、当選5回。行政改革担当相、防衛相、自民党政調会長などを歴任。細田派所属。 

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