元顧問弁護士・山之内幸夫氏が語る山口組分裂の根源と行方
2015年8月に山口組の分裂騒動が勃発。司忍6代目組長が率いる6代目山口組と、4代目山健組の井上邦雄組長をトップとして結成された神戸山口組との対立抗争が続いていたが、昨年、6代目山口組の高山清司若頭が出所してから一層熾烈に。これを沈静化しようと、今年に入り両者は「特定抗争指定暴力団」に指定され、今後の動きに注目が集まっている。山口組はどう変わっていくのか? 山口組を熟知した元顧問弁護士の山之内幸夫氏を直撃した。
■去るも地獄、残るも地獄
――今月「山口組の平成史」を上梓されました。なぜ今、出版する運びになったのですか?
私は約40年間、山口組の顧問弁護士という立場で彼らと接してきました。暴力団を排除する社会の締め付けが行くところまで行ってしまった現在、元身内同士で喧嘩している場合ではありません。分裂の当初から、「去るも地獄、残るも地獄」と苦渋の心境を打ち明けてくれる神戸の幹部がいたほどで、分裂が山口組の体力を著しく奪っているのは間違いありません。そのことに目覚め、一刻も早く終息に向かってほしい。関係者に対してもそんな思いも込めて、最後のご奉公のつもりで本を書いたのです。
――山口組の立場は平成から今に至るまでどう変わったのでしょうか。
平成はヤクザが我が世を謳歌した時代ではありました。しかし後半からは暴力団排除の嵐で世間から人として認めてもらえず、シノギも枯渇し、底辺へ突き落とされた。中でも山口組はヤクザ業界のリーダー格として絶頂と地獄の激しい落差を経験しているわけです。現在、ヤクザとして生きていくということは、人権がないのと同じです。マンションは借りられない。銀行口座は持てない。車のレンタルすらできない。ホテルに泊まれない。葬儀場は使えない。携帯電話は買えない。宅配業者は荷物を受け付けない。子供は学校でいじめられる……。60歳の老組員が郵便局でバイトをしたら「暴力団組員の身分を隠していた」と詐欺罪で逮捕されました。担当者に勧められるままに40年以上も加入していた生命保険を見直したら「暴力団組員と申告しなかった」とやはり詐欺罪で逮捕された件もあります。
――なぜそういうことが起こるのでしょうか。
1991年に「暴力団対策法(暴対法)」が制定され、暴力団は社会から排除されるべき「反社会的勢力」となった。追い打ちをかけたのが、2000年に入ってからの地方公共団体の条例「暴力団排除(暴排)条例」です。生活保護費を支給しない。公共工事から排除する。ホテルの利用や銀行取引の拒否。子供が入学時に保護者が組関係者でないことを伝える証明書の提出。証券・不動産・生命保険などあらゆる業界からの排除。こうした規制が次々に決められ、ヤクザは社会生活を営めない状況になったのです。暴対法では規制する対象が暴力団だったのが、暴排では暴力団に利益提供する一般人も規制対象になっているのも特筆すべき点です。
――人として扱われたいならヤクザをやめればいいのでは?
確かにそういう声は聞こえてきます。しかし暴排の対象は「暴力団員でなくなって5年を経過しないもの」や「密接関係者」にまで広げられています。やめて5年間はヤクザに準じて差別を受け、生計を立てる術がない。これは、ヤクザの家族も含みます。そもそもヤクザの完全消滅は現実的に不可能でしょう。