管理野球とチームプレーを持ち込んだ 監督・川上哲治の「実像」と「功罪」
「君は打たなくていい。ONのお膳立てをしてくれればいい」
<「巨人軍を勝たせるのが俺の仕事」>
もちろんマイナス面もあった。高田実彦氏(前出)はこう言う。
「ひとつは選手の使い捨てでしょう。V9時代も他球団の主力選手を毎年のように集めた。中には他の球団に取られるとライバルチームの戦力アップになる、だから巨人で取ってしまえという選手もいた。考え方によれば、そうすることで選手に競争をさせ、チーム力をレベルアップさせようとしたのでしょうが……。もうひとつはファンのことはほとんど頭になかったことです。マスコミとも一線を引いた。キャンプのときグラウンドに白線を引き、そこから報道陣を入れなくした。練習中の取材は禁止、選手には答える必要はないと伝えていました。“哲のカーテン”を敷いたのです」
5点リードしていてもスクイズをする、セーフティーリードの八回でも犠打で送るといった「石橋を叩いても渡らない」といわれた手堅い作戦は野球をつまらなくしたと批判もされた。そうした野球で勝つことが当たり前になったV9時代の途中には観客が減り、伸び悩んだ時もあった。