早草紀子
著者のコラム一覧
早草紀子フォト・ジャーナリスト

兵庫・神戸市生まれ。東京工芸短大写真技術科卒業。在学中のJリーグ元年からサッカー誌に寄稿。1994年からフリーランスとしてサッカー専門誌を主戦場に活躍。1996年からは日本女子サッカーリーグのオフィシャルカメラマンを務め、女子サッカー報道の先駆者として幅広く活動した。日本サッカー協会公式サイトで長年、女子サッカーのコラムを担当。現在Jリーグ・大宮アルディージャのオフィシャルカメラマン。「紡 なでしこジャパンが織りなす21の物語」「あすなろなでしこ」「なでしこの教え」など著作多数。

なでしこオランダ取材の旅はコロナ対策の現状を知る貴重な体験でもあった

公開日: 更新日:

 池田太新監督率いる日本女子代表「なでしこジャパン」は、11月のオランダ遠征でフィンランド(現地25日)、オランダ(同29日)とテストマッチを行った。チームは12月1日に帰国したが、新型コロナウイルスの新たな変異株「オミクロン株」の日本政府対応に基づき、特例措置が中止となって「空港検疫が指定するホテルで6日間」の隔離を含む「14日間の待機」が必要となった。これにより、なでしこジャパンの「国内組18人」が4日のWEリーグに出場できなくなり、全5試合が延期されることになった。フォトジャーナリスト・早草紀子氏によるオランダ遠征帯同記の第2弾であるーー。

■街中を歩く人の半数はマスクなし

 オランダ入国時(現地11月22日)には、すでに部分的なロックダウンが始まっていた。

 午後7時にはレストランが光を落とす。寒さが一段と厳しくなるこの時期、夜になれば気温5度前後まで冷え込むも、かつてはストーブの側のテラス席で食事を楽しむ人たちの姿をしばしば目にしたものだが、今はそもそも人出がない。

 とはいえ、感謝祭直前ということもあり、日中はそこそこの賑わいを見せていた。

 街中を歩く人たちがマスクをしているのは、ほぼ半数程度だろうか。

 道路にはラインが引かれており、感染拡大期には<右側通行というルール>があったことうかがわれる。

 再びロックダウンとなっても、一度は緩和されたルールである。当時の感覚に戻すことは、簡単ではないのだろう。今はそんな通行ルールを気にしている人は、ほとんどいないように感じた。

日本では「ぐうたら事情」で生活

 オランダ入りした当初は、マスクをしていない人の姿に怖さも感じたものだが、屋内に入る際には着用を促されているのを見て<適宜>着用ということでバランスを取っていることに納得。

 ここ2年、日本ではマスクを外しても良い場所でさえ、そうできない個人的な「ぐうたら事情」の中で生活していた。当然、オランダに行っても、その習慣が変わるはずもなく、筆者は外出の際にマスクを外すことはなかった。

 そもそも、少しでも感染リスクを避けようと思い、混雑していそうなアムステルダムには宿を取らず、そこから電車で20~30分ほど離れたアルメレという初戦のアイスランド戦が行われた街を今回の拠点とした。

 アルメレは……これから発展していく街、としておこう。それほど混み合うこともなく、このご時世に滞在するには最適の街だ。

なでしこ宿泊先はバブル形成最適地

 なでしこジャパンの選手たちは、その街からさらに車で15分ほどの郊外でバブルを形成していた。「なぜそんなところに巨大ホテルが?」というような立地なので経営面への心配を抱いてしまったほどだが、バブル形成には最適な場所だ。

 オランダ遠征で決めていたことがある。それは【外食は一切しない】ということ。

 今回の使命は、池田太監督の初陣の様子を伝えること、そしてコロナ感染を避けて無事に帰国することの2点だ。

 リスクは徹底的に回避したい。時にはテイクアウト、時にはオープンと同時にスーパーへ行き、数日分の食材を買い込んで飢えをしのぐ。

 シャレオツなカフェを横目にしながら、地元民さながらの食材を抱えてホテルへ戻る日々を繰り返した。

 基本的な行動範囲はホテル、練習場、スタジアム、スーパーの4箇所。

街中を歩いていると目に入ってくる

 何よりも重要だったのが、簡易的なコロナラボの存在だ。

 現在、オランダで食事をする際には、24時間以内の陰性証明が必要となる。そのため、街中には検査を受けることが出来るラボがある。 

 スマホのアプリで予約し、ラボに入って身分照会が済めば着席し、鼻の粘膜をパパッと綿棒でこすって検体を取ってくれる。スムーズにいけば、ラボに入って出るまで1分に満たない時もあった。 

 そして20分後には陰性であればメールが、陽性であれば電話が掛ってくる。もちろん誰が受けても無料だ。気軽に誰でも検査を受けられるのは、羨ましい限りである。

 ただし、ここから筆者だけが、スムーズに事が進まなかった。

 スマホにオランダ政府のコロナアプリをインストールしてあり、そこに陰性証明を反映させられる仕組みとなっており、人々はそれを見せて揚々とレストランへ入っていく。

 筆者のアプリも同じモノのはずなのだが、QRコードを作成するためのPINコードが一向に届かないのである。

 試合会場に入る際にもこの陰性証明が必要だったので、仕方なく陰性証明そのものを携帯にダウンロードして会場で見せる作戦に。

あまりのドヤ顔に失笑を買ってしまった

 これでも問題はないのだが、せっかくインストールしたアプリだ。何が何でもオランダ人同様に颯爽とQRコードを読み込まれてみたいーー。

 幾度もトライした結果、ついに成功したのは、陰性証明が必要となる最後の提示機会であるオランダ戦の時。あまりの私のドヤ顔ぶりに担当者が失笑していたものだが、それは見なかったことにした。

 オランダ遠征の途中から世界中で新たな変異株「オミクロン株」の陽性反応者が次々と判明し、オランダからの帰国者も「6日間のホテル隔離措置」(滞在先の国によってホテル隔離期間はまちまち)が適用されることになった。

 その適用初日(12月1日)の帰国となったこともあり、着陸してからホテルに入るまで実に7時間を要した。

 降機してから隔離措置を知った乗客がモメている姿も見たが、「そこは従うしかないですよ、お兄さん……。状況は刻一刻と変わっているのだから」と心の中で呟きながら、むしろウィルスを持ち込まずに帰国できたことを証明してもらえるじゃないかーーとポジティブに捉えるようにした。

 海外から帰国した自分たちに出来るのは、コロナ禍での出入国に携わっている人たちの手を「必要以上に煩わせないようにすることだな」と改めて強く感じた。

 ◇  ◇  ◇

 筆者は、成田空港近くのホテルで当コラムを執筆した。隔離されたホテルでは、一歩たりとも部屋から出ることは許されない。朝、昼、晩と弁当がドアノブに掛けられて、食べ終わるとドアの外の「床」に置くことになっている。ホテルによってルールが異なるようだが、部屋の外へ出ることが出来ないのは共通ルールのようだ。

 日中はオンラインで打ち合わせや原稿作成、写真整理など、ほぼ自宅で行うはずだった作業が無駄な誘惑がない分、むしろ滞りなく進んでいる。

 リモートワークのためにホテルに入ったと思えば、なんら支障はない。と言いつつ、隔離2日目にして早々に知人に差し入れをしてもらった。ここで「お寿司が食べたい」と言いたいところだが、冷蔵、冷凍が必要なものは受け付けてもらえない。コーヒー、出汁、卵、漬物、お茶漬けの素、お菓子などをリクエストし、この6日間のお弁当を可能な限りアレンジして乗り切ろうと決意した。

 6日目のPCR検査で陰性を勝ち取れば、解放される。空港近くの駐車場のスタッフに車を持ってきてもらって(このサービスがあるからいつも同じところを利用している)自宅へ。そして、さらに8日間の自宅待機へ突入する予定だ。

 さすがに最後の最後に降機→ホテルまでの7時間は堪えたが、2020年3月ぶりとなった海外取材の旅は、コロナ対策の現状を知る貴重な体験でもあった。(おわり)

【連載】コロナ禍 なでしこオランダ遠征帯同記

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