『「原発さまの町」からの脱却』吉原直樹著

公開日: 更新日:

原発発論ふたたび

 小泉・細川「反原発元首相コンビ」の都知事選出馬宣言により、にわかに盛り返した反原発論を読み解く。

■大熊町の生活再建から学ぶコミュニティーのあり方

 原発事故であまりにも大きな痛手をこうむった福島県双葉郡大熊町。著者によると事故後、この地区の被災者との話に「原発さま」という言葉が頻出したという。驚く話だが、実はもともと原発立地以前の大熊町は、太平洋に面しながらも良港はなく、農業以外の産業もない状態で「福島県のチベット」と呼ばれていたという。双葉町では原発反対運動も起こったが、大熊町では反対は少なく、むしろ歓迎する向きも少なくなかったらしい。それが福島原発事故後の被災地・被災者に対するひそかな冷遇の背景にもあったようなのだ。

 本書はこうした側面にまで踏み込みながら、大熊町のかかえる問題が実は日本の衰退する地域社会やコミュニティーのあり方に通底することを少しずつ明らかにする。その一方、バラバラに分断されながらも、なんとか立ち直ろう、新たなつながりを持とうとする大熊町。その具体的な努力をもドキュメントのかたちで明らかにする。数ある“フクシマ本”の中でも最も地道な努力に基づく一冊。

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    映画「国宝」ブームに水を差す歌舞伎界の醜聞…人間国宝の孫が“極秘妻”に凄絶DV

  2. 2

    「時代と寝た男」加納典明(22)撮影した女性500人のうち450人と関係を持ったのは本当ですか?「それは…」

  3. 3

    輸入米3万トン前倒し入札にコメ農家から悲鳴…新米の時期とモロかぶり米価下落の恐れ

  4. 4

    くら寿司への迷惑行為 16歳少年の“悪ふざけ”が招くとてつもない代償

  5. 5

    “やらかし俳優”吉沢亮にはやはりプロの底力あり 映画「国宝」の演技一発で挽回

  1. 6

    参院選で公明党候補“全員落選”危機の衝撃!「公明新聞」異例すぎる選挙分析の読み解き方

  2. 7

    「愛子天皇待望論」を引き出す内親王のカリスマ性…皇室史に詳しい宗教学者・島田裕巳氏が分析

  3. 8

    TOKIO解散劇のウラでリーダー城島茂の「キナ臭い話」に再注目も真相は闇の中へ…

  4. 9

    松岡&城島の謝罪で乗り切り? 国分太一コンプラ違反「説明責任」放棄と「核心に触れない」メディアを識者バッサリ

  5. 10

    慶大医学部を辞退して東大理Ⅰに進んだ菊川怜の受け身な半生…高校は国内最難関の桜蔭卒