『「原発さまの町」からの脱却』吉原直樹著

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原発発論ふたたび

 小泉・細川「反原発元首相コンビ」の都知事選出馬宣言により、にわかに盛り返した反原発論を読み解く。

■大熊町の生活再建から学ぶコミュニティーのあり方

 原発事故であまりにも大きな痛手をこうむった福島県双葉郡大熊町。著者によると事故後、この地区の被災者との話に「原発さま」という言葉が頻出したという。驚く話だが、実はもともと原発立地以前の大熊町は、太平洋に面しながらも良港はなく、農業以外の産業もない状態で「福島県のチベット」と呼ばれていたという。双葉町では原発反対運動も起こったが、大熊町では反対は少なく、むしろ歓迎する向きも少なくなかったらしい。それが福島原発事故後の被災地・被災者に対するひそかな冷遇の背景にもあったようなのだ。

 本書はこうした側面にまで踏み込みながら、大熊町のかかえる問題が実は日本の衰退する地域社会やコミュニティーのあり方に通底することを少しずつ明らかにする。その一方、バラバラに分断されながらも、なんとか立ち直ろう、新たなつながりを持とうとする大熊町。その具体的な努力をもドキュメントのかたちで明らかにする。数ある“フクシマ本”の中でも最も地道な努力に基づく一冊。

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