「時軸」山口保著

公開日: 更新日:

■時間が堆積した無機質の岩塊が放射するエネルギー

 海を望む岬や崖、そして内陸部の川辺などで岩塊の風景を撮影した写真集。かつて房総の岩礁海岸で「個としての岩」の「ポートレート」を撮影していたとき、足元に広がる圧倒的な存在感を示す岩盤に徐々に心を奪われ「おまえはなぜこれほど巨大で、膨大な時を重ねた存在に視線を向けないのか」と呼び止められる気がしたという著者が、本州と四国の「岩の国」16カ所を巡り撮影した力作だ。

 テーブルマウンテンのように海から屹立(きつりつ)した山口県萩市須佐の岩塊。風化という現象を拒絶してきたかのように、たった今、大地から屹立したばかりのように見えるその崖には、途方もない時間をかけて積み重ねられた岩の由来が一望できる。

 その他、命が出現する前の神々の時間を思わせる島根県出雲市大社町日御碕の風景や、独立峰のような高知県室戸市室戸岬町の海辺の岩塊、福井県坂井市三国町安島の天に向かってそびえる未来都市みたいな東尋坊の海から突き出た岩塊など。

 荒々しい地球のエネルギーをそのまま形にしたような風景があるかと思えば、幾何学的な様相がまるでモダンアートのようでもある兵庫県豊岡市赤石の青龍洞や、新潟県十日町市小出の清津峡の柱状節理(マグマが冷却する過程で割れた無数の角柱)、柔らかな曲線が女性的な高知県土佐清水市竜串海岸の砂岩の表面に残された岩の化石の漣痕(れんこん)など、岩塊もさまざまな表情を持つ。

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    日本ハムが新庄監督の権限剥奪 フロント主導に逆戻りで有原航平・西川遥輝の獲得にも沈黙中

  2. 2

    白鵬のつくづくトホホな短慮ぶり 相撲協会は本気で「宮城野部屋再興」を考えていた 

  3. 3

    DeNA三浦監督まさかの退団劇の舞台裏 フロントの現場介入にウンザリ、「よく5年も我慢」の声

  4. 4

    藤川阪神の日本シリーズ敗戦の内幕 「こんなチームでは勝てませんよ!」会議室で怒声が響いた

  5. 5

    佳子さま“ギリシャフィーバー”束の間「婚約内定近し」の噂…スクープ合戦の火ブタが切られた

  1. 6

    半世紀前のこの国で夢のような音楽が本当につくられていた

  2. 7

    生田絵梨花は中学校まで文京区の公立で学び、東京音大付属に進学 高3で乃木坂46を一時活動休止の背景

  3. 8

    武田鉄矢「水戸黄門」が7年ぶり2時間SPで復活! 一行が目指すは輪島・金沢

  4. 9

    田原俊彦「姉妹は塾なし」…苦しい家計を母が支えて山梨県立甲府工業高校土木科を無事卒業

  5. 10

    プロスカウトも把握 高校球界で横行するサイン盗みの実情