「時軸」山口保著
■時間が堆積した無機質の岩塊が放射するエネルギー
海を望む岬や崖、そして内陸部の川辺などで岩塊の風景を撮影した写真集。かつて房総の岩礁海岸で「個としての岩」の「ポートレート」を撮影していたとき、足元に広がる圧倒的な存在感を示す岩盤に徐々に心を奪われ「おまえはなぜこれほど巨大で、膨大な時を重ねた存在に視線を向けないのか」と呼び止められる気がしたという著者が、本州と四国の「岩の国」16カ所を巡り撮影した力作だ。
テーブルマウンテンのように海から屹立(きつりつ)した山口県萩市須佐の岩塊。風化という現象を拒絶してきたかのように、たった今、大地から屹立したばかりのように見えるその崖には、途方もない時間をかけて積み重ねられた岩の由来が一望できる。
その他、命が出現する前の神々の時間を思わせる島根県出雲市大社町日御碕の風景や、独立峰のような高知県室戸市室戸岬町の海辺の岩塊、福井県坂井市三国町安島の天に向かってそびえる未来都市みたいな東尋坊の海から突き出た岩塊など。
荒々しい地球のエネルギーをそのまま形にしたような風景があるかと思えば、幾何学的な様相がまるでモダンアートのようでもある兵庫県豊岡市赤石の青龍洞や、新潟県十日町市小出の清津峡の柱状節理(マグマが冷却する過程で割れた無数の角柱)、柔らかな曲線が女性的な高知県土佐清水市竜串海岸の砂岩の表面に残された岩の化石の漣痕(れんこん)など、岩塊もさまざまな表情を持つ。