「鄙への思い」田中優子著、石山貴美子写真

公開日: 更新日:

■鄙と都との構造的問題に向かい合う

 東日本大震災で浮き彫りになった「鄙(ひな)」(都市部から離れた「いなか」)と「都」の関係を見つめるフォトエッセー。

 水俣事件と深くかかわってきた渡辺京二氏が講演会で発した「人間は土地に結びついている。土地に印をつけて生きている存在である。人間は死んだ人間の思いとつながって生きている」との言葉を心に刻んだ著者が引き込まれた一枚の写真。それは、山あいに美しく整えられ、田植えを待つばかりの田んぼの風景だった。何代にもわたって営々と続けられてきたであろうその田んぼを3基の墓が見守り、墓石には花が供えられている。

 その写真を手にして著者は「見守り、見守られる関係として、あらゆる死者とつながって生きるのが、鄙の生き方」であろうとつづる。

 元来、鄙は生産の場所であり、江戸時代は消費するだけの者や消費物を動かすだけの商人は価値が低い存在だと考えられていた。しかし、原発事故で福島が、生きることも困難な、再生することすら難しい地域になってしまったのはなぜか? 原因は、地震と津波ではなく、鄙が都の犠牲となることをあらかじめ位置づけられていたからではないかと問う。

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    上白石萌音・萌歌姉妹が鹿児島から上京して高校受験した実践学園の偏差値 大学はそれぞれ別へ

  2. 2

    大谷 28年ロス五輪出場が困難な「3つの理由」とは?

  3. 3

    学力偏差値とは別? 東京理科大が「MARCH」ではなく「早慶上智」グループに括られるワケ

  4. 4

    ドジャース大谷の投手復帰またまた先送り…ローテ右腕がIL入り、いよいよ打線から外せなくなった

  5. 5

    よく聞かれる「中学野球は硬式と軟式のどちらがいい?」に僕の見解は…

  1. 6

    備蓄米報道でも連日登場…スーパー「アキダイ」はなぜテレビ局から重宝される?

  2. 7

    進次郎農相の「500%」発言で抗議殺到、ついに声明文…“元凶”にされたコメ卸「木徳神糧」の困惑

  3. 8

    長嶋茂雄さんが立大時代の一茂氏にブチ切れた珍エピソード「なんだこれは。学生の分際で」

  4. 9

    (3)アニマル長嶋のホームスチール事件が広岡達朗「バッドぶん投げ&職務放棄」を引き起こした

  5. 10

    米スーパータワマンの構造的欠陥で新たな訴訟…開発グループ株20%を持つ三井物産が受ける余波