「ノラや」内田百閒著
ユーモアあふれる内田文学を堪能
夏目漱石門下の小説家であった著者による、猫にまつわる作品集。
ある日、一匹の野良猫が庭にすみ着くようになる。“ノラ”と呼べば“ニャア”と返事をするその雄猫を著者は大層可愛がるが、3月の寒い午後、ふらっと出かけていって帰らなくなってしまう。仕事も手につかず、風呂場のふたの上に寝ていたノラの姿を思い出し、悲しくて寂しくて10日以上も風呂に入れなくなる。
新聞に猫捜しの広告を出し、「ノラやノラや、お前はもう帰ってこないのか」と嘆き悲しんでいたときに、塀の上に現れた貧弱な野良猫。ノラを思いながら、クルツと名付けたその猫も可愛くなってきて……。
猫好きならば百閒氏の思いが手に取るように分かる、切なくもおかしな14編。
(中央公論新社 724円)