著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「ドローンランド」トム・ヒレンブラント著、赤坂桃子訳

公開日: 更新日:

 アメリカと中国は没落し、ブラジル、アラブ、EUが新しいエネルギーをめぐって覇権を競っている近未来のヨーロッパを舞台にした長編だ。タイトルは、大小さまざまなドローンによって監視されている社会、ということから付けられている。

 欧州議会議員の死体が発見され、ユーロポールの主任警部ベスターホイゼンが捜査に乗り出すところから始まっていく。帯に「ドイツ語圏の主要ミステリ賞・SF賞受賞」とあるように、SFでもあり、ミステリーでもあるので、どちらのジャンルの読者も楽しめる作品である。

 シミュレーション空間「ミラースペース」を駆使すれば、犯行現場を再現することも可能というSF的設定をはじめとして、舞台設定や小道具の使い方が鮮やかだ。たとえば、この未来ではいつも雨が降っていて、沿岸部の都市は水没し、中国では将軍が地方で反乱を起こしていたりする。こういうディテールがさりげなく語られて、この物語を引き締めているのもいい。

 なによりもいいのは読みやすいことだ。それは地味な捜査を描きながらもそのテンポがよく、さらに鮮烈なイメージが随所に現出するからだ。SFはどうも苦手という読者にこそすすめたい。ラスト近くのアクションの切れもよく、スリリングな展開に息をのむこと必至。もちろん物語の着地もよく、映画にしたいような面白小説だ。(河出書房新社 2800円+税)


【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    安青錦は大関昇進も“課題”クリアできず…「手で受けるだけ」の立ち合いに厳しい指摘

  2. 2

    阿部巨人に大激震! 24歳の次世代正捕手候補がトレード直訴の波紋「若い時間がムダになっちゃう」と吐露

  3. 3

    マエケン楽天入り最有力…“本命”だった巨人はフラれて万々歳? OB投手も「獲得失敗がプラスになる」

  4. 4

    中日FA柳に続きマエケンにも逃げられ…苦境の巨人にまさかの菅野智之“出戻り復帰”が浮上

  5. 5

    今田美桜に襲い掛かった「3億円トラブル」報道で“CM女王”消滅…女優業へのダメージも避けられず

  1. 6

    高市政権の“軍拡シナリオ”に綻び…トランプ大統領との電話会談で露呈した「米国の本音」

  2. 7

    エジプト考古学者・吉村作治さんは5年間の車椅子生活を経て…80歳の現在も情熱を失わず

  3. 8

    日中対立激化招いた高市外交に漂う“食傷ムード”…海外の有力メディアから懸念や皮肉が続々と

  4. 9

    安青錦の大関昇進めぐり「賛成」「反対」真っ二つ…苦手の横綱・大の里に善戦したと思いきや

  5. 10

    石破前首相も参戦で「おこめ券」批判拡大…届くのは春以降、米価下落ならありがたみゼロ