著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「Y.M.G.A暴動有資格者」三羽省吾著

公開日: 更新日:

 いやあ、面白い。三羽省吾がこういう小説を書くとは思ってもいなかった。

 近未来の日本が舞台である。巨大企業PRNが牛耳る社会となっている。こぼれ落ちた者は水路や地下鉄の引き込み線などの地下に住み、工事現場等で低賃金で働いている。社会から見捨てられた民だ。貧富の二極化が進み、中間層のいない社会と言い換えてもいい。

 そういう時代の若者たちの話だ。身体能力抜群の少女リオ、弟分のオトヤ、リーダーのオーティーらは窃盗団を結成し、地上を荒らしまくっている。そこに現れたのは空飛ぶバイク「アフロ」を自由に乗り回す謎の青年カイ。本来、地下の住民が手にすることはできない「アフロ」を入手した窃盗団YMGAは、行動をエスカレートさせていく。

 地上の警察官であるのに地下住民に味方する遠野、PRN系列の保険会社に雇われた用心棒雨狗、特区の食堂で働くカーチャンなど、個性豊かな登場人物が入り乱れ(そのそれぞれのドラマも奥行きがあってなかなかいい)、色彩感あふれる物語が展開していく。

 つまり背景よく、小道具よく、キャラクターも構成も、すべてが素晴らしい。アクションの切れも半端じゃなく、迫力満点の戦いが始まっていくのだ。厳密には異なるものの、内戦状態の日本を描く打海文三の傑作「裸者と裸者」を思い出してしまった。近未来を鮮やかに描く物語という点では似ているだろう。三羽省吾の傑作だ。(朝日新聞出版 1700円+税)




【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    参政党が消せない“黒歴史”…党員がコメ農家の敵「ジャンボタニシ」拡散、農水省と自治体に一喝された過去

  2. 2

    極めて由々しき事案に心が痛い…メーカーとの契約にも“アスリートファースト”必要です

  3. 3

    遠野なぎこさんを追い詰めたSNSと芸能界、そして社会の冷酷無比な仕打ち…悲惨な“窮状証言”が続々

  4. 4

    ドジャース大谷翔平がついに“不調”を吐露…疲労のせい?4度目の登板で見えた進化と課題

  5. 5

    “お荷物”佐々木朗希のマイナー落ちはド軍にとっても“好都合”の理由とは?

  1. 6

    清水賢治社長のセクハラ疑惑で掘り起こされるフジテレビの闇…「今日からシリケン」と“お触り続行”の過去

  2. 7

    カブス鈴木誠也「夏の強さ」を育んだ『巨人の星』さながら実父の仰天スパルタ野球教育

  3. 8

    千葉を「戦国」たらしめる“超過密日程”は今年の我が専大松戸に追い風になる手応えを感じています

  4. 9

    趣里はバレエ留学後に旧大検に合格 役者志望が多い明治学院大文学部芸術学科に進学

  5. 10

    参政党が参院選で急伸の不気味…首都圏選挙区で自公国が「当選圏外」にはじかれる大異変