著者のコラム一覧
青沼陽一郎

作家・ジャーナリスト。1968年、長野県生まれ。犯罪事件、社会事象などをテーマに、精力的にルポルタージュ作品を発表。著書に「食料植民地ニッポン」「オウム裁判傍笑記」「私が見た21の死刑判決」など。

カラダを売って生きていく“1億総活躍社会”の実像

公開日: 更新日:

「貧困とセックス」中村淳彦、鈴木大介著(イースト・プレス 861円+税)

 人類において最初に誕生した職業は娼婦である。しばしば、そんなことが語られる。無一文から商売を始めるには、生まれながらの資産であるカラダを取引することは合理的である。だが、いまの日本の貧困の実情は、そんな悠長なことを語っている次元にない。
 本書は、性産業の現場を取材してきた、いわゆるサブカル雑誌出身のライター2人による対談形式になっている。だが、彼らが現場から感じ取り、取材の積み重ねと分析によって語られる貧困へのアプローチは鋭いものがある。
「何かおかしいと思い始めたのは、AV女優に普通の子が増えてから。こんな普通の子たちが裸の世界に足を踏み入れるのはおかしくないかって疑問に思ったのが最初で、2005年くらいだった」
 そう語るように、それは“小泉改革”による新自由主義が日本に浸透してきた時期と重なる。格差社会が助長される一方で、有名大学を出た高学歴の女性が性産業に職を求めるようになっていた。
 その背景には、奨学金問題があると両者は指摘する。教育がビジネスになり、積極的に奨学金制度を設けて大学進学を推進してきたが、卒業してみればたちまち返済を求められる借金に変わる。大学を出たところで、職能が身についているわけでもなく、低賃金長時間労働も受け入れざるを得なくなる。それがブラック企業であることも気付かない。どっちを向いても貧困が待ち受ける社会構造の一端は絶望的だ。
 赤裸々に語られる裏社会の実態。そうした中で、セックスワークは貧困女子にとってのセーフティーネットとなる。
 本書にある以下の言葉が、その現実を如実に表している。
「誰もお金がなければ生活できない。救済なしに排除するほど貧困の当事者たちが地下に潜ることは当然で、援デリなど反社会的な組織が、生きていけない女性たちに普通の生活を提供する実質的な“福祉”になるほど、いまの日本の社会は荒れている」
「援デリ」とは、業者が援助する売春のことをいうのだそうだ。
 カラダを売っても生き抜く。“1億総活躍社会”の実像がそこにある。

【連載】ニッポンを読み解く読書スクランブル

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • BOOKSのアクセスランキング

  1. 1

    渋さと垣間見える緩さが紛れもなくパトレイバー│「『機動警察パトレイバー』寿司屋の後藤」伊藤和典著

  2. 2

    マリー・アントワネットは洞窟から「王妃の村里」へ│「驚異の隠し部屋世界各地の内緒の部屋・秘密の抜け道・迷宮・秘宝」ステファン・バックマンほか著 片山美佳子訳

  3. 3

    詩をはじめる本屋 蒼枯(東中野)「自分が詩で感じたことをベースに他のジャンルのものを引っ張ってくるみたいな」

  4. 4

    山崎ナオコーラ(作家)自分たちの生きる能力の低さを実感

  5. 5

    現実の地面師事件はドラマ以上に複雑 「地面師VS.地面師 詐欺師たちの騙し合い」森功著

  1. 6

    「極限の漂流118日間」ソフィー・エルムハースト著 村井章子訳│野生動物のように必死に生きたかけがえのない時間

  2. 7

    時空を超えて没入 文庫で読む時代小説(3)犬を連れた名探偵・三郎太の名推理

  3. 8

    これは斬新!テーマがユニークなアンソロジー小説特集(3)ひとりの食事はこんなに豊かで楽しい!

  4. 9

    「ソフト対策である情報は受け手側が積極的に活用する必要があります」──「豪雨災害から身を守る」牛山素行氏

  5. 10

    (60)これを佐助に着せてやってくれ

もっと見る

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    巨人2年連続V逸で再び始まる“見境なしの大補強”…床田、坂倉、吉田正尚に小園海斗まで照準

  2. 2

    阪神に来オフ「藤川GM×赤星監督」の仰天プラン浮上! 球団初のリーグ連覇も指揮官交代へ

  3. 3

    北陸最大の観光都市・金沢駅の「みどりの窓口」が大混雑、平日11時で32組待ち…現場で見えてきた順番待ちが減らない構造的問題

  4. 4

    歌手・山内惠介さん「カラオケ大会会場での母の叫び声で、僕は歌手になれた」

  5. 5

    梅野隆太郎&糸原健斗は戦力外回避か? 気になる阪神ベテラン功労者2人の処遇

  1. 6

    元巨人・桑田真澄氏に白羽の矢…中日はなぜ“完全外様”を次期監督の最有力候補に据えたのか

  2. 7

    JR東日本で相次ぐ「グリーン車タダ乗り」問題を乗車して検証…SNSに“アテンダントなし区間情報”流れモラル崩壊

  3. 8

    【巨人】2026年 戦力外通告選手一覧

  4. 9

    簗農相にまだまだ醜聞続出か?「道路予算カット」暴言も反省ゼロ…臨時国会は大混乱必至

  5. 10

    【阪神】2026年 戦力外通告選手一覧

おすすめ求人情報

Sponsored by 求人ボックス