返済不能になる親子連鎖で自己破産も

公開日: 更新日:

「奨学金が日本を滅ぼす」大内裕和著/朝日新書

 最近まで、子供を大学卒業まで面倒見たら、親は子育てを卒業できた。しかし、そうした常識が覆りつつある。

 本書によると、20年前に2割に過ぎなかった奨学金を利用する大学生の割合は、いまや5割を超えている。大学の学費が高騰するなかで、親の所得が伸びず、親がすべての学費を負担することができなくなってきているからだ。

 しかも、ドイツやフランス、イタリアなどの奨学金が、すべて返済不要の給付型であるのに対して、日本は奨学金のほとんどを返済が必要な「教育ローン」が占めている。かつては、大学卒業者はエリートだったから、就職すれば高い年収を得て、奨学金を返済することが困難ではなかった。ところがいまや、大学進学率が5割、高等教育機関全体だと8割の時代だ。大学卒業後の所得は伸び悩み、不安定化している。そのため奨学金返済が、非常に難しくなっているのだ。そうなってくると、親としても、卒業後の子供を放っておけない。奨学金の返済は、親が連帯保証人になっているからだ。奨学金が返済できずに親子が連鎖して自己破産するという本書で紹介された事例には、本当に心が痛む。そこまで行かなくても、奨学金の返済は最長20年に及ぶ。子供が40代になるまで、親が子育てを終えられない時代がやってきているのだ。

 本書の最大の特長は、大学教員である著者と学生たちのコミュニケーションのなかから生まれているため、話が具体的で、分かりやすいことだ。そして分かりやすいだけに、奨学金問題の深刻さも、より強く伝わってくる。

 著者は、給付型奨学金の拡充と授業料の引き下げを強く求めている。私は全面的に賛成だ。

 いまから42年も前の話だが、私は、大学進学時に父の勤める会社が倒産した。そこで、私は民間財団から給付型奨学金を受けて、大学に進学した。給付額は年間12万円だったが、大学の授業料はすべてまかなえた。大学の授業料が安かったからだ。家が貧しくても、平等に教育の機会を与えるというのが、長期的にみれば、最も重要な成長戦略だと私は思う。政策論として、あるいは親子の生涯生活設計のためにも、本書は必読の書だ。

★★★(選者・森永卓郎)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    元横綱・三重ノ海剛司さんは邸宅で毎日のんびりの日々 今の時代の「弟子を育てる」難しさも語る

  2. 2

    巨人・岡本和真を直撃「メジャー挑戦組が“辞退”する中、侍J強化試合になぜ出場?」

  3. 3

    3年連続MVP大谷翔平は来季も打者に軸足…ドジャースが“投手大谷”を制限せざるを得ない複雑事情

  4. 4

    高市政権大ピンチ! 林芳正総務相の「政治とカネ」疑惑が拡大…ナゾの「ポスター維持管理費」が新たな火種に

  5. 5

    自民党・麻生副総裁が高市経済政策に「異論」で波紋…“財政省の守護神”が政権の時限爆弾になる恐れ

  1. 6

    立花孝志容疑者を"担ぎ出した"とやり玉に…中田敦彦、ホリエモン、太田光のスタンスと逃げ腰に批判殺到

  2. 7

    沢口靖子vs天海祐希「アラ還女優」対決…米倉涼子“失脚”でテレ朝が選ぶのは? 

  3. 8

    矢沢永吉&甲斐よしひろ“70代レジェンド”に東京の夜が熱狂!鈴木京香もうっとりの裏で「残る不安」

  4. 9

    【独自】自維連立のキーマン 遠藤敬首相補佐官に企業からの違法な寄付疑惑浮上

  5. 10

    高市政権マッ青! 連立の“急所”維新「藤田ショック」は幕引き不能…橋下徹氏の“連続口撃”が追い打ち