「おもちゃ絵 芳藤」谷津矢車著
人気絵師の歌川国芳が死んだ。弟子の芳藤は国芳の次女・お吉に頼まれて葬儀を仕切り、国芳の画塾を引き継ぐことに。葬儀が終わるころ、馴染みの版元・樋口屋がやってきて、国芳の姿を描く追善絵の話をもちかける。弟弟子や樋口屋の勧めで芳藤が引き受けることにしたとき、かつて国芳の弟子だった河鍋暁斎のひと言が芳藤の心を刺した。
「あんたの絵には華がないよ」
浮世絵師とはいっても芳藤が描いているのは役者絵でも美人画でもなく、福笑いのようなおもちゃ絵だった。芳藤は追善絵の仕事を人間を描くのが得意な弟弟子の幾次郎に譲る。だが、そんな芳藤にも時代の光が当たるときが……。絵筆ひとすじに生きた絵師の物語。(文藝春秋 1650円+税)