「劇場」又吉直樹著
主人公「永田」は、売れない小劇団の脚本家。ある日、画廊をのぞきこんでいる沙希という女性を見て、この人こそ自分を理解してくれる人なのではないかと思い、強引に声をかけて喫茶店に誘う。最初は警戒していた沙希も、中学の頃から演劇部だったこともあり、永田に興味を持つようになった。
当初、恐る恐る沙希をデートに誘っていた永田だったが、自分が脚本を書いた演劇に出演してもらったことをきっかけに、親の仕送りで暮らす沙希のアパートに転がり込む。しかし、沙希が社会人になった頃から2人の関係に少しずつ変化が訪れる……。
「火花」で第153回芥川賞を受賞し、芸能界に文学旋風を巻き起こした著者による最新作。演劇をやる以外に生き方を知らない主人公が、自分の中に渦巻く才能への渇望や嫉妬心を噴出させてしまうがゆえに起こる演劇仲間との衝突や、自分が自分のままでいること自体が人を傷つけてしまう切ない現実を描いている。
描写の一つ一つを肌触りのある実のある言葉にしていく緻密な言葉運びが素晴らしい。タレント本という先入観で読むと、驚かされること必至だ。(新潮社 1300円+税)