「劇場」又吉直樹著

公開日: 更新日:

 主人公「永田」は、売れない小劇団の脚本家。ある日、画廊をのぞきこんでいる沙希という女性を見て、この人こそ自分を理解してくれる人なのではないかと思い、強引に声をかけて喫茶店に誘う。最初は警戒していた沙希も、中学の頃から演劇部だったこともあり、永田に興味を持つようになった。

 当初、恐る恐る沙希をデートに誘っていた永田だったが、自分が脚本を書いた演劇に出演してもらったことをきっかけに、親の仕送りで暮らす沙希のアパートに転がり込む。しかし、沙希が社会人になった頃から2人の関係に少しずつ変化が訪れる……。

「火花」で第153回芥川賞を受賞し、芸能界に文学旋風を巻き起こした著者による最新作。演劇をやる以外に生き方を知らない主人公が、自分の中に渦巻く才能への渇望や嫉妬心を噴出させてしまうがゆえに起こる演劇仲間との衝突や、自分が自分のままでいること自体が人を傷つけてしまう切ない現実を描いている。

 描写の一つ一つを肌触りのある実のある言葉にしていく緻密な言葉運びが素晴らしい。タレント本という先入観で読むと、驚かされること必至だ。(新潮社 1300円+税)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    元横綱・三重ノ海剛司さんは邸宅で毎日のんびりの日々 今の時代の「弟子を育てる」難しさも語る

  2. 2

    矢沢永吉&甲斐よしひろ“70代レジェンド”に東京の夜が熱狂!鈴木京香もうっとりの裏で「残る不安」

  3. 3

    巨人・岡本和真を直撃「メジャー挑戦組が“辞退”する中、侍J強化試合になぜ出場?」

  4. 4

    “最強の新弟子”旭富士に歴代最速スピード出世の期待…「関取までは無敗で行ける」の見立てまで

  5. 5

    “文春砲”で不倫バレ柳裕也の中日残留に飛び交う憶測…巨人はソフトB有原まで逃しFA戦線いきなり2敗

  1. 6

    【独自】自維連立のキーマン 遠藤敬首相補佐官に企業からの違法な寄付疑惑浮上

  2. 7

    物価高放置のバラマキ経済対策に「消費不況の恐れ」と専門家警鐘…「高すぎてコメ買えない」が暗示するもの

  3. 8

    福島市長選で与野党相乗り現職が大差で落選…「既成政党NO」の地殻変動なのか

  4. 9

    Snow Manライブで"全裸"ファンの怪情報も…他グループにも出没する下着や水着"珍客"は犯罪じゃないの?

  5. 10

    今の渋野日向子にはゴルフを遮断し、クラブを持たない休息が必要です