「うなぎ女子」加藤元著

公開日: 更新日:

 物語の舞台は、うなぎ屋「まつむら」。権藤佑市という売れない俳優が通うこの店に、うなぎに対してそれぞれの思いを持つ女が訪れる。本書は、そんな佑市と縁を持つ5人の女たちの5つのストーリーがつづられている。

 第1章「肝焼き」に登場するのは、佑市と20年前に知り合い、同棲を続けてきた笑子という女。君のおかげでうなぎを食べる喜びを知ったという佑市の言葉にほだされ、周囲の反対を押し切って一緒にいたものの、ある疑惑から別れを決意する。

 しかし、2章以降に登場する大学教授と見合いをする女、ベストセラー作家になることを夢見る女、入院中の病院で佑市と知り合った女、ある時まで佑市の妹として生きてきた女たちのストーリーを読み進めると、佑市という人物の意外な全体像が見えてくる。読み終えた後に、もう一度ページを遡って読み返したくなる仕掛けがうまい。

 うなぎ屋の焦げたような甘い匂いで想起された、女たちの切ない思い出に引き込まれる。(光文社 1500円+税)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ドジャース大谷翔平32歳「今がピーク説」の不穏…来季以降は一気に下降線をたどる可能性も

  2. 2

    高市政権の物価高対策はもう“手遅れ”…日銀「12月利上げ」でも円安・インフレ抑制は望み薄

  3. 3

    元日本代表主将DF吉田麻也に来季J1復帰の長崎移籍説!出場機会確保で2026年W杯参戦の青写真

  4. 4

    NHK朝ドラ「ばけばけ」が途中から人気上昇のナゾ 暗く重く地味なストーリーなのに…

  5. 5

    京浜急行電鉄×京成電鉄 空港と都心を結ぶ鉄道会社を比較

  1. 6

    ドジャース佐々木朗希の心の瑕疵…大谷翔平が警鐘「安全に、安全にいってたら伸びるものも伸びない」

  2. 7

    【時の過ぎゆくままに】がレコ大歌唱賞に選ばれなかった沢田研二の心境

  3. 8

    「おまえもついて来い」星野監督は左手首骨折の俺を日本シリーズに同行させてくれた

  4. 9

    ドジャース首脳陣がシビアに評価する「大谷翔平の限界」…WBCから投打フル回転だと“ガス欠”確実

  5. 10

    巨人が李承燁コーチ就任を発表も…OBが「チグハグ」とクビを傾げるFA松本剛獲得の矛盾