どこかに詩人の心を潜ませている

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「マコの宝物」えきたゆきこ著/現代企画室

 日々、仕事というものに忙殺されているに違いないビジネスマンに、ふと立ち止まってこの本を手に取ってもらいたい。ある山里の人々の暮らしを描いたこの“つくりものでない童話”に「豊かさとは何か」「生きるとはどういうことなのか」を静かに考えさせられると思うからである。

 貧乏な家に育って、学校も尋常小学校までしか行っていない「いっきょうさん」が、娘の結婚式で用意したあいさつを忘れてしまい、次のように思いのままを話す。

「この通りフツツカな娘であります。私どもは貧乏で、この子を上の学校にも上げてやれませんでした。女の子らしい服も、子供らしいオモチャもよう買うてはやりませんでした。体の弱い母親を助けて、こまいころから家の手伝いばっかりさせて、遊ぶことも勉強することも思うようにはようせずに育ちました。へじゃが、私たちはこの子を私たちなりに一生けんめいに大事に大事に育ててきました。やさしい、素直な、よう仕事をする、ええ娘に育ってくれたと思うちょります」

 全文引用したい誘惑に駆られるが、以下略としよう。著者のえきたゆきこを浴田由紀子と漢字で書けば、「アッ」とか、「アア」と感嘆詞を投げる人もいるのではないか。1974年8月30日、東京・丸の内の三菱重工業本社前に時限爆弾を装置して爆発させ、通行人8人死亡、重軽傷者385人を出すという結果を招いた「東アジア反日武装戦線」グループのひとりである。彼女は逮捕され、先ごろ刑期を終えて出てきた。

 アノ浴田がこんな、まさに「宝物」のような話を書いたのか、と意外に思う人もいるだろう。しかし、こうしたナイーブな心を持つ浴田だからこそ書けたのだというべきである。偏見を持たずに読んで、意外か、当然かを自分で判断してほしい。同じグループの大道寺将司も中原中也とランボーが好きな少年だった。そして秀逸な獄中句を残した。大道寺のことは松下竜一が「狼煙を見よ」(河出書房新社)に書いているが、「豆腐屋の四季」の著者の松下は1984年夏に獄中の大道寺から手紙をもらった。そこには、大道寺が政治犯に「豆腐屋の四季」を読むことをすすめたために、突然、獄中にその本のブームが訪れたとあった。

 大杉栄の遺児のことを書いた「ルイズ」とかではないのが意外だったが、一途な行動に走る人間はみな、どこかに詩人の心を潜ませているのである。

★★★(選者・佐高信)

【連載】週末オススメ本ミシュラン

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