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「日本列島の自然と日本人」西野順也著

 タモリのあの番組の影響なのか、学生時代は暗記科目で退屈だった「地理」が今、脚光を浴びている。また、2022年度からは高校で地理が必修化されるそうだ。そんな「地理」を学び直し、その面白さを教えてくれたり、地震に備えるための基本情報が詰まった本など5冊を紹介する。

 日本列島は、山や谷による分断された地形と、温暖で湿潤な気候があいまって、縄文以来、日本特有の風土と文化が生み出されてきた。そんな日本人と自然との関わりを考察したテキスト。

 日本人は、自然から豊かな恵みを得てきたが、自然を大切にしてきたわけではない。万葉集や浮世絵からも、日本の森林が荒廃していたことが読み取れるという。一方で島国に住む日本人は、災害が起きても土地を捨て他の土地に移ることができなかった。森林の回復を待ちながら自然が与えてくれる範囲内で生きていくしかなく、不安定な自然に適応する努力を数千年も続けてきた。その結果、自然に対する緻密な観察力と、自然の変化に対する鋭敏な感受性が磨き上げられ、やがてそれらが日本特有の精霊信仰的な自然観を育んできたという。多彩な視点から語られる日本人論。

 (築地書館 1800円+税)

「決定新版日本の地震地図」岡田義光著

 日本周辺では、この119年間にM7以上の大地震が125個、1年に1個の割合で発生している。本書は、日本各地で過去にどのような地震があり、その被害の程度や地震の原因、そして今後の予測をまとめた日本の地震の基本図書の新版。

 1923年の関東地震以降、関東地方では大きな被害を伴う地震は発生していない。しかし、本来は地震の多い地域で、記録に残る818年の関東諸国の地震以来たびたび大地震に見舞われてきた。プレート間巨大地震だった関東地震型の再来はまだ100年以上先だと考えられるが、M7級の直下型地震はその発生を警戒すべき時期に入っていると、その想定モデルや被害予想などを詳述。その他、未曽有の巨大地震になると予測される南海トラフ地震など、多くの図版を用い、いつどこでなにが起きるかを解説。

 (東京書籍 1800円+税)

「今こそ学ぼう 地理の基本」長谷川直子編

 編者は、地理とは「なぜその地域がそのようになっているのか?」を理解するためにあるという。

 例えば人が住んでいる場所といない場所の違いは何かを考え、その理由が砂漠や川の存在にあるとしたら、なぜその場所が砂漠となったか。なぜそこに川ができたのかを考える。

 世の中で起こっている現象やその仕組みには理由があり、相互に関連して成立していることを知ることに、地理を学ぶ醍醐味があるという。

 人間のことだけでなく、自然環境への理解も必要な、文系・理系の枠を超えた総合学である地理の基本が学べるテキスト。

 地形や気候の仕組み、自然環境と人間の関係、地理の基本ツールとなる地図や、地図を作るための測量、身近な生活の中で活躍する地理情報システムまで。

 地理を学び直したい人に最適だ。

 (山川出版社 1800円+税)

「驚きに満ちた日本を発見!!奇跡の地形」藤原治監修

 北海道・美瑛のうねるような丘陵や、日本三景の宮城県の松島など、各地の絶景と呼ばれる美しい自然地形誕生のドラマを紹介する写真ガイド。

 北海道の道南・せたな町の海岸にそびえる高さ30メートルほどの3つの巨岩「三本杉岩」は、かつてのマグマの通り道「火道」だという。約1000万年前、一帯は火山活動で、火山噴出物の地層に覆われた。その後、風雨や波に地層が削られた結果、硬い火道だけが残され、現在の姿になったという。

 こうした浸食による絶景から、山口県の海岸で見られるミルフィーユ状の崖「須佐ホルンフェルス」のような堆積による地形、海底火山の噴出物から生まれた下北半島の佐井村・仏ケ浦海岸のような噴火による絶景など37景。観光名所も、その成り立ちを知ると一層味わい深い。

 (洋泉社 1780円+税)

「富士山はどうしてそこにあるのか」山崎晴雄著

 書名にある「なぜそこに富士山があるのか」という素朴な疑問から、地球の歴史、環境変化の歴史、地形の形成過程、自然災害との関係までを解き明かすサイエンス本。
 富士山は更新世末から完新世(1万1700年前以降)に頻繁に噴火を繰り返し、溶岩や火山噴出物を火山斜面に堆積し成層火山を成長させて出来上がってきたが、2900年前までは円錐形の独立峰ではなく、複数の峰を持つツインピークスだったという。そして、富士山は相模・南海・太平洋の3つのトラフが重なり合い交差するところにあるからこそ、今の美しい姿が生まれたのだ。
 他に、日本列島はなぜ弓形をしているのか、関東平野はなぜ広いのかなどの疑問にも平易に答えていて、読むと「地形発達史」の基礎知識が身につく格好の入門書だ。
 (NHK出版 850円+税)

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