「知ったかぶり」は大恥のもと 教養を磨く本特集

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「世界でいちばんやさしい教養の教科書」児玉克順著

 芥川龍之介の「侏儒の言葉」風にいえば、「教養」は一箱のマッチと同じで、重大に扱わないと危険である。「教養」をひけらかすつもりが、逆に「教養のなさ」を露呈してしまうこともある。そんな羽目に陥る前に、読んでおきたい本4冊を紹介しよう。

 近代以前は、権力は王や領主が握っていたが、20世紀末になるとグローバル化が進み、権力は社会システム自体が持つようになる。現代社会は人々に自由を約束しているように見えるが、そのシステムはより巧妙に人々を管理している。英語のlibertyとfreedomは「制約や束縛からの解放」を意味しているが、国家などから制約を受けない権利を得る代わりに、自らの判断で自らを制約する責任と義務が課されるのだ。

 第2次大戦前、民主主義社会で自分の目的を見失った国民が強力な指導力を持ったリーダーを熱望したことが、全体主義などを浸透させる結果を招いた。大戦後は世界が安定し、欧米では再び国家による制約を減らして、より自由な経済活動を尊重しようとする新自由主義とリバタリアニズムが生まれた。

 だが、精神性を排除する近代合理主義と、誰もが自分の利益を追求する弱肉強食の自由主義に疲れて、人々は人と人との関わり合いを尊重する生き方を求めるようになる。個人の利益よりも共同体の利益が大切にされ、共同体の制約を積極的に受け入れることで、人とのつながりや生きる意義を手に入れることができる共同体主義や共同社会が生まれた。

 リーマン・ショック以後、過度な自由でも過度な制約でもない、両者のバランスが取れた社会体制のあり方が模索されている。(7章 社会)

 歴史、経済、哲学など9つの分野を2段階のステップに分け、マクロの視点からミクロの視点に移るというスタイルでわかりやすく解説。

 (学研 1500円+税)

「英単語の語源図鑑」清水建二、すずきひろし著

 英単語は語源を知ると覚えやすい。著者はlavatory(トイレ)とlaboratory(実験室)の区別ができなかったが、laboratoryの中にlabor(労働)があることに気づき、「労働する場所(ory)だから実験室なのか」と目からうろこが落ちたという。

 また、cept、ceiveは「つかむ」という意味で、ceptの前に「~の方へ」の意のa(c)を付けると、「自分の方につかみ入れる」意のaccept(受け入れる)になる。

 ところが「外に」を意味するexを付けるとexcept(~を除いて)に。ceiveは、前に「完全に」を意味するperを付けるとperceive(わかる)になるが、「離れて」の意のdeを付けると、なんとdeceive(だます)になってしまうのだ。

 100語源で、1万語の語彙がわかる英単語集。

 (かんき出版 1500円+税)

「ヤバいほど日本語知らないんだけど」前田安正著

「汚名返上」「汚名挽回」どっちが正しい? 「汚名」は「不名誉な評判」で、「返上」は「返す」意なので「汚名返上」はOK。ところが「挽回」は「失った物を取り返し回復させること」だから、「名誉挽回」はいいが、「汚名挽回」はNG。では、「敵に煮え湯を飲まされた」は? 「煮え湯を飲まされる」は「信用していた人に裏切られる」意なので、本来とは違う使い方である。言葉の正しい使い方を覚えておくだけでなく、故事に基づくかっこいい四字熟語なども覚えておこう。

 再起を懸ける場合に使ってみたいのが「捲土重来」。唐の詩人、杜牧が、「烏江の戦い」で劉邦に敗れ、自刃した項羽を詠んだ詩にある言葉。土を巻き上げてもう一度やってきて再起を図ったら未来はどうなったかわからないのに、の意。

 朝日新聞ベテラン校閲者が、慣用句や四字熟語の本来の意味をわかりやすく説明した一冊。

 (朝日新聞出版 1200円+税)

「東大教授がおしえるやばい日本史」本郷和人監修

「独眼竜」伊達政宗は、秀吉から北条攻めに参加するよう命じられるが、北条家とは同盟を結んでいたため、逡巡しているうちに戦は終盤に。出遅れた政宗は死に装束を身に着けて秀吉の元に赴き、弟をひいきにしている母に毒を盛られたと言い訳し、死ぬ覚悟で来たと言ってその場を切り抜けた。翌年は反乱を起こそうとして失敗、また秀吉に謝罪するというあきれた武将だったが、その半面、天下取りの野望を持ち続けたすごい武将でもあった。政宗は、スペインと軍事同盟を結び、幕府を倒そうとしたものの、キリスト教禁止令が出されたため挫折した。

 ほかに、家柄に関係なく実力で登用するなどすばらしい制度をつくったが、上から目線の手紙で隋の皇帝を怒らせてしまった聖徳太子など、歴史上の人物を「やばい」と「すごい」の両面から立体的に見るおもしろ歴史本。 (ダイヤモンド社 1000円+税)

【連載】ザッツエンターテインメント

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