「新しい世界の資源地図」ダニエル・ヤーギン著 黒輪篤嗣訳

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 SDGsには資源に関わる目標も掲げられているが、資源の周囲では地政学や安全保障にまで関わるさまざまな問題が深刻化しているのが現実だ。

 本書では、エネルギー問題の世界的権威でピュリツァー賞受賞者の著者が、資源戦争の裏側を詳述している。

 電気自動車への移行や再生可能エネルギーによる発電の急成長で、バッテリーの技術が進化。同時にサプライチェーンや製造も拡大し、戦略上の優先順位も上がっている。そして銅の需要も、リチウム・マンガン・ニッケル・コバルトなどの金属の需要に関しても国家間の獲得競争が激化し、地政学を含めて警戒感が強まっている。

 すでに先行しているのが、中国だ。バッテリー分野でリーディングポジションを獲得しており、世界の電池生産能力の80%を占めるに至っている。バイデン政権は、バッテリーの高成長と中国からの輸入の依存が重なったことから危機感を強め、戦略的優先事項として国内生産設備の増強に取り組み始めている。インドでは、中国との国境地帯で両国の軍隊の衝突が起こった2020年から、中国のサプライチェーンへの依存を減らすことに一層力を入れている。

 とはいえ、鉱物は通常、最初の発見から生産開始まで16年以上かかり、しかも石油に比べて生産が一部の国に集中している。世界の3大産油国の産油量は、世界の産油量のうち30%程度だが、リチウムの場合、上位3カ国が供給量の80%以上を占めているという点も、新たな資源に関わる安全保障の課題だ。

 アメリカのシェール革命、石油離れに対する中東の改革のほか、本書では天然ガスをめぐって対立するロシアとウクライナの現状についても解説している。

(東洋経済新報社 3520円)

【連載】ポストコロナの道標 SDGs本

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