「中絶がわかる本」ロビン・スティーブンソン著 塚原久美訳、北原みのり監修

公開日: 更新日:

 2017年にトランプ政権となって以降、アメリカでは安全で合法的な中絶を受けることがどんどん難しくなり、“性と生殖の権利に対する脅威”がエスカレートし続けているという。テキサス州では、妊娠6週目以降の中絶を禁止する州法の差し止めが却下されたことで、他の州もこれに続く動きがある。妊娠6週目とはほとんどの女性がまだ妊娠に気づかないタイミングで、実質的に中絶が受けられないことになる。

 SDGsの17の目標のうち、目標5ではジェンダーについて提言しており、女性の性と生殖に関しても設定。誰もが妊娠や出産について自分の意思で決定できることを目標としている。本書では、女性の権利の視点から中絶について詳述。SDGsに逆行するアメリカの中絶に関する政策などについても写真やイラスト付きで解説している。

 トランプ政権は、アメリカはもとより世界中の女性の命や健康に壊滅的な打撃を与えたと本書。アメリカ政府から資金提供を受けている海外のNGOに対して中絶の提供を禁じるばかりか、自国の中絶禁止法を変える運動まで禁止する「グローバル・ギャグ・ルール」を復活させたためだ。これでは、意図しない妊娠による出産や安全でない中絶が増えるばかりだ。実際、世界では資格のない人々や不潔な環境で行われる中絶で、年間推定4万7000人の女性が命を落としているという。

 中絶の問題は日本にも無関係ではない。世界では時代遅れとなった、女性の体に負担のかかる掻爬(そうは)手術がいまだ主流であること。世界では1980年代から使われている中絶薬が承認されていないことなど、問題は山積している。「中絶の権利」について深く考えさせられる。

(アジュマブックス 2750円)

【連載】ポストコロナの道標 SDGs本

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    日本ハムが新庄監督の権限剥奪 フロント主導に逆戻りで有原航平・西川遥輝の獲得にも沈黙中

  2. 2

    白鵬のつくづくトホホな短慮ぶり 相撲協会は本気で「宮城野部屋再興」を考えていた 

  3. 3

    DeNA三浦監督まさかの退団劇の舞台裏 フロントの現場介入にウンザリ、「よく5年も我慢」の声

  4. 4

    藤川阪神の日本シリーズ敗戦の内幕 「こんなチームでは勝てませんよ!」会議室で怒声が響いた

  5. 5

    佳子さま“ギリシャフィーバー”束の間「婚約内定近し」の噂…スクープ合戦の火ブタが切られた

  1. 6

    半世紀前のこの国で夢のような音楽が本当につくられていた

  2. 7

    生田絵梨花は中学校まで文京区の公立で学び、東京音大付属に進学 高3で乃木坂46を一時活動休止の背景

  3. 8

    武田鉄矢「水戸黄門」が7年ぶり2時間SPで復活! 一行が目指すは輪島・金沢

  4. 9

    田原俊彦「姉妹は塾なし」…苦しい家計を母が支えて山梨県立甲府工業高校土木科を無事卒業

  5. 10

    プロスカウトも把握 高校球界で横行するサイン盗みの実情