「ぼくはテクノロジーを使わずに生きることにした」マーク・ボイル著、吉田奈緒子訳

公開日: 更新日:

 現代人の生活は、あらゆるテクノロジーの上に成り立っている。パソコンやスマホなどのIT機器はもちろん、電子レンジも冷蔵庫もエアコンもすべてテクノロジーだ。

 しかし著者は、多くの現代人が“あって当然”とみなすこれらの文明の利器を、片っ端から手放す暮らしを試みている。さぞかし質素で不便でつまらない毎日だろうと思いきや、本書には意外にも複雑で、かつ豊かな生活の様子がつづられている。

 実は著者、10年ほど前に「カネなし生活」を3年にわたって続けたことがある。これは、持続可能な地球を取り戻すために自分の消費するモノや自然と、金銭を介さずに直接つながり直してみようという信念に基づくものだった。その暮らしをユーモラスにつづった前著「ぼくはお金を使わずに生きることにした」は、各国で注目され、20以上の言語に翻訳されてきた。そして本作では新たに、完全に“プラグを抜いた”生活を選択している。

 著者の「テクノロジーなし生活」はIT機器や家電製品のみを指すのではない。スイッチひとつでつく電気も、ワンプッシュで火のつくガスコンロも、蛇口をひねるだけで水が出る水道も使わない。加工や輸送過程でグローバルな産業テクノロジーに依存する輸入食品も断つという徹底ぶりだ。しかし、地域の生態系と調和しながら、畑を耕し野菜を育て、野生の鹿をさばいてタンパク質を補給し、泉で水をくみ、夜には手作りの蜜蝋キャンドルをともす暮らしの様子は、シンプルだけれど忙しく、そして豊かだ。

 テクノロジーに囲まれた便利な生活は、一方で自分のものではない生を生きているようだと本書。テクノロジーまみれの自分の生活を見直したくなる。

(紀伊國屋書店 2090円)

【連載】ポストコロナの道標 SDGs本

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    阪神・梅野がFA流出危機!チーム内外で波紋呼ぶ起用法…優勝M点灯も“蟻の一穴”になりかねないモチベーション低下

  2. 2

    梅野隆太郎は崖っぷち…阪神顧問・岡田彰布氏が指摘した「坂本誠志郎で捕手一本化」の裏側

  3. 3

    国民民主党「選挙違反疑惑」女性議員“首切り”カウントダウン…玉木代表ようやく「厳正処分」言及

  4. 4

    阪神に「ポスティングで戦力外」の好循環…藤浪晋太郎&青柳晃洋が他球団流出も波風立たず

  5. 5

    本命は今田美桜、小芝風花、芳根京子でも「ウラ本命」「大穴」は…“清純派女優”戦線の意外な未来予想図

  1. 6

    巨人・戸郷翔征は「新妻」が不振の原因だった? FA加入の甲斐拓也と“別れて”から2連勝

  2. 7

    時効だから言うが…巨人は俺への「必ず1、2位で指名する」の“確約”を反故にした

  3. 8

    石破首相続投の“切り札”か…自民森山幹事長の後任に「小泉進次郎」説が急浮上

  4. 9

    今田美桜「あんぱん」44歳遅咲き俳優の“執事系秘書”にキュン続出! “にゃーにゃーイケオジ”退場にはロスの声も…

  5. 10

    参政党のSNS炎上で注目「ジャンボタニシ」の被害拡大中…温暖化で生息域拡大、防除ノウハウない生産者に大打撃