「日本のフェミニズム」井上輝子著

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「フェミニズム」と聞くと、男性を敵と見なして糾弾する女性や、正義を振りかざして男性を押しのけようとする女性を思い浮かべるかもしれない。しかし、これは誤ったイメージだ。本来のフェミニズムとは単に男性を敵視する思想ではない。女性が人間として当たり前の社会的地位を取り戻し、不利益をもたらす差別をなくすことを目指す思想と運動の総称だからだ。

 本書は、2021年8月に死去した、日本における「女性学」の生みの親である著者が最後に記した、日本のフェミニズムの歴史書である。15年に国連サミットで採択されたSDGsの目標5にも「ジェンダー平等を実現しよう」と掲げられているが、そのはるか昔から行われてきた、女性たちの闘いの軌跡が記されている。

 世界的に見ると、フェミニズムの歴史は18世紀後半まで遡り、男性と平等の市民権、とりわけ参政権獲得を目指す運動が広がっていった。一方、日本でフェミニズムの思想と運動が始まったのは欧米から遅れること100年余りの19世紀末以降のことだ。

 例えば、日本には江戸時代から公娼制度があり、遊郭に引き渡された女性は一種の奴隷状態に置かれていた。日本における最初の廃娼運動は1880年で、伊香保温泉を擁する群馬県で新島襄創立の安中教会を中心とした運動が起こった。1872年には「芸娼妓解放令」が出されていたものの実質的な公娼制度が続いていた中、この運動が契機となり全国でも廃娼運動が盛んになっていったという。

 他にも、「女工哀史」で知られる製糸工場の劣悪な労働環境に対する条件改善運動や堕胎論争など、日本の女性たちが闘わなければならなかった問題が明らかにされている。

(有斐閣 2420円)

【連載】ポストコロナの道標 SDGs本

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