「檸檬の棘」黒木渚著

公開日: 更新日:

 父親が死んだ。戸籍上の他人になった10年前から、父親を徹底的に拒絶しようと決めて生きてきた栞は、だから葬式にも参列しなかった。死の1カ月前、末期がんで緩和ケアに入っていると聞いたが、見舞いにも行かなかった。父親への強烈な怒りを糧に生きてきた栞は、うかつに同情などしたくなかったからだ。

 田舎町で育った栞は小学校卒業と同時に家を離れ、県外の私立の女子中高一貫校に入学。寮生活を送っていた栞の知らないところで家族は終わった。最後にあの家に漂っていた空気も、交わされた会話も知らないまま突然「終わった」という事実を受け取り、なす術もなかったのだ……。

 歌手、そして作家として活躍する著者が、父親への屈託を抱え生きてきた自らの青春時代を独特の文体でつづった私小説。

(講談社 704円)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    「NHKの顔」だった元アナ川端義明さんは退職後、いくつもの不幸を乗り越えていた

  2. 2

    永野芽郁の「文春」不倫報道に噛みついたGACKTさんは、週刊誌の何たるかがわかっていない

  3. 3

    前田健太「ドジャース入り」で大谷との共闘に現実味 日本復帰より「節目の10年」優先か

  4. 4

    元NHK岩田明子は何をやってもウケない…コメントは緩く、ギャグはスベる、クイズは誤答

  5. 5

    ウクライナ出身力士 安青錦がすべてを語った…単身来日して3年、新入幕で敢闘賞

  1. 6

    小田和正「77歳の現役力」の凄み…現役最年長アーティストが守り続ける“プロ意識”

  2. 7

    奥さんが決断してくれた…元大関の小錦八十吉さん腎臓移植を振り返る

  3. 8

    今思えばゾッとする。僕は下調べせずPL学園に入学し、激しく後悔…寮生活は想像を絶した

  4. 9

    のんを襲った"後輩女優の二股不倫報道"の悲劇…カルピスCMめぐる永野芽郁との因縁

  5. 10

    Mrs.GREEN APPLEとディズニーのコラボに両ファン懸念…売れすぎた国民的バンドゆえの"食傷感"